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2007.04.18

「幕末機関説 いろはにほへと」小説版 座長が語る舞台裏

 先日めでたく大団円を迎えました「幕末機関説 いろはにほへと」ですが、その時代考証と殺陣指導を担当した牧秀彦先生によるノベライゼーションが刊行されました。ほとんどの部分をヒロインである遊山赫乃丈を語り手としたスタイルで、アニメ全二十六話の内容を一冊に収めています。

 まず最初に厳しいことを書いてしまえば本書、上記の通り一冊でアニメ全編の内容を収めているため、内容としては相当にダイジェストしたものとなっております。また、最大のウリであるはずの剣戟描写も、本編であっさりと流されていた部分(三人の守霊鬼との決着など)はこちらでも流されていたりするのが残念なところ。
 また、基本的に座長視点であるため、彼女の視界にないもの、知識のないものはスルーされており、例えば東照宮の月涙刀の正体や蒼鉄先生の出自などは、本編以上に不明なものとなっているのも、些か当てが外れた気分ではあります。

 が、そういった点はあるにせよ、アニメ本編を全て観た人間にとってはなかなかに面白いものとなっている本書。座長と接点がなかったものについてはなるほどスルーでしたが、その分、座長に関するエピソードはなかなかの充実ぶりであります。
 例えば、耀次郎に出会うまで、蒼鉄先生と赫乃丈一座で各地で悪人退治をしていたとか、
耀次郎を追って一人旅立つ直前、夢枕に恵比須が立っていたとか、お駒姐さん初登場の時に耀次郎に近づいてきたときには心中穏やかならざるものがあったりとか、本編では描かれなかった部分なども描きこまれており、なかなか興味深いものがあります。ことに、耀次郎への感情の変化などは、本編ではちょっと唐突に感じられた部分も、座長の一人称で語られてみると、なかなか微笑ましく、納得できる部分もあります(また、終盤の偽ジャンヌ状態になっていた頃などは、これまでと全く変わらぬ文体で狂ったことを書いているのが恐ろしい)。
 その反面、本編ではかなり力を入れて描かれた、戊辰戦争・箱館戦争に関する部分が、かなりサラッと触れるのみとなっているのですが、本編では史実の大きな流れの前に物語の本筋が霞がちだった面もあるため、これはこれで悪くはないように思います。
 何よりも、あのシーンはこういうことだったのか、とか、このシーンの裏側ではこんなことがあったのか、というのが楽しめるのは、本編を仕舞いまで見通した人間にとっては、嬉しいサービスでありました。

 が、この座長の一人称というスタイルで大変に割りを喰った人物が一人…
 確かに、冷静に考えてみればお互い名乗り合う機会もなかったわけであって、座長にとっては、何だか自分に妙な視線を向けてくる殿方で、秋月様に事あるごとに突っかかってくる奴にしか見えなかったのだなあと気付かされて、おかしくなったり気の毒になったり…しかもようやく名前を覚えてもらった頃には座長は首に操られて正気を失っていて(つまり、この小説中で名前が出るのは本当にラスト近く)、その死についても数行で済まされる始末…
 座長は神無に酷い事をしたよね(´・ω・`)

 そ、それはさておき、もう一人割りを喰いかねない人、すなわち本編の主人公でありながら、劇中では何を考えていたのか今一つわからなかった耀次郎については、結局座長からの視点であるため、結局彼の心中は外側から想像するしかないのが惜しいのですが、彼の場合はアニメ本編でも鉄面皮だったので、本人以外の誰が語り手でも変わらなかったでしょう…

 が、その当の耀次郎が自らの心中を語っているのが、本書のプロローグ部分。唯一座長視点でない、耀次郎が本編第一話で横浜に現れるまでを描いたこのプロローグは、作中で語られた内容と合致しつつも、オリジナルな描写となっております。そして、この部分にこそ、耀次郎の鉄面皮の理由が示されています。

 突然話が飛ぶようで恐縮ですが、本編の最終回をご覧になった方の中には、ラストで、耀次郎が、これまで口にすることがなかったある言葉を発するのに気付いた方もいるのではないかと思います。恥ずかしながら、私は人に指摘されるまで大して気にも留めずにスルーしてしまったのですが、これが実に大きな意味を持っていたことが語られるのが、この小説版のプロローグ。
 このプロローグにより、何故ラストであの言葉を口にしたのかがわかると同時に、耀次郎が竜馬から受け継ぎ、失い、そして取り戻したものが何だったのか、そして何より、何故耀次郎のキャラクターが薄く見えたのか、それに気付かされたのは、全くもって嬉しい驚きであり、かつこれまでの自分の不明を恥じたことです。
(もっとも、本編の描写だけでこの点に気付くのはかなり難しいと思いますし、この小説版のラストではあの言葉が出てこないのも不思議なのですが)

 何はともあれ、アニメ本編を一つの舞台とすれば、その主演女優が自ら語った裏舞台とも言える本書。アニメ本編全二十六話を書かさず観て、かつ牧秀彦ファンである私には、それなりに楽しめるものでありましたし、アニメ本編のファンの方(除く神無ファン)にとっても、楽しい副読本となるのではないかと思います。
 これが一つのきっかけになって、牧先生自ら熱望する続編に繋がれば、これほど嬉しいことはないと思います。


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