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2007.05.05

「花嫁新仏 菅原幻斎怪異事件控」 現世と異界の媒介者

 神田川は姿見橋のほとりに一人住まう霊媒師・菅原幻斎を主人公にした奇譚シリーズも、なかなかの好評らしく第三巻目。日常生活にぽっかりと開いた不可思議の世界を、幻斎が垣間見る全五話が収録されています。

 かの菅原道真公の血を引く幻斎は、住まいこそ貧乏臭いものの、優れた力を持つ霊能者。現世と異界の間に現れる幽霊や魍魎と対峙することとなるのですが、単純なゴーストハンターものというより、人情話的色彩が強いのが特徴でしょう。
 例えば、標題作である「花嫁新仏」は、幼子を遺して先妻が亡くなってすぐに後妻を入れた男の前に、先妻の亡霊が現れるという趣向。すわ先妻が恨んで出てきたか、といえば実は…という話で、幻斎はむしろ調停者の役割を果たすことになるのですが、考えてみれば霊媒とは霊の媒介をする者。その意味では幻斎は正しく霊媒としての責を果たしていると言えます。

 さて、もう一つ本シリーズの特徴は、各エピソードに原話が存在していること。正直な話をすれば、上に挙げた「花嫁新仏」なども、大変にベタな、どこかで聞いたことのある話なのですが、それも道理。本シリーズにおいては、日本や中国の古典怪談集をベースとした物語を描き、そこに幻斎を置くことにより、新たな物語を生み出そうとしているのです。
 その試みがうまくいくかは、ひとえに原話のチョイスと、幻斎の存在により何が生まれるかによります。正直なところ、シリーズ当初はその噛み合わせがあまり良いと言えない部分もあったのですが、第三作である本書においては、かなりうまく回りだした印象があります。

 原話のままでは、さすがに現代の読者にとっては古くささを拭えない物語であっても、異界の神秘と人情の機微を知り尽くした(割りには微妙に人間が出来てないのはご愛敬)幻斎を狂言回しとして配置することにより、それなりに読ませる物語として成立させてしまうのはお見事。
 これもいにしえの霊異の世界と現代の我々を媒介している…というのは牽強付会に過ぎるかな。

 ちなみに本書の全五話中、最も私の印象に残ったのは、とある筆屋を舞台に、あたかも死の呪いが連鎖したかのように、自らの幻影を見た男女が次々と命を落としていく「怨霊輪廻」でした。いわば「伝染する怪談」で、またえらく現代的(?)な趣向でありますが、その果てに待ち受ける死魔の正体というのがまた実にユニークで、感心させられました。
 恥ずかしながら、原話の見当がつかないのですが、死魔の正体まで含めた原話があるのであれば、これは怪談ファンとして大いに興味深い話ですし、本作の作者が原話をこのような形にアレンジしたのであれば、時代ホラーファンとして作者には大いに敬意を払わねばと感じた次第です。


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