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2007.05.10

「耳袋秘帖 浅草妖刀殺人事件」 「耳袋」というフィルター

 三ヶ月連続刊行の三ヶ月目、「耳袋秘帖」シリーズの第三作目が登場しました。これまで同様、全五話構成の連作短編スタイルながら、同時に一つの巨大な事件が描かれる趣向となっています。タイトルは「浅草妖刀殺人事件」…何だか即物的なネーミングですが(第二作目もそうでしたが、仮題の方が格好よいというのはいかがなものでしょう)、内容としてはいつもながらに安心して読めるウェルメイドな作品です。

 刀屋や武具屋ばかりを狙い、邪魔する者は女子供でも容赦しない外道の盗賊二人が江戸に出没。互いを「タ」「スケ」と呼び合うことから、所業には似合わぬ「おたすけ盗賊」と呼ばれるその凶盗に、根岸肥前守と配下たちが挑むというのが今回の縦糸です。
 が、事件はそれに留まりません。ちょっとした出来心から、おたすけ盗賊が隠した金を盗んでしまった男の転落譚、とある小藩の御家騒動とその背後で暗躍する殺し屋の影…そこに、各話それぞれに、まるで「耳袋」に登場しそうな怪事が絡むのですから、ずいぶんと賑やかな構成となっています。

 個人的に本書で一番印象に残ったのは、縁の下に籠もってしまった少女の物語「縁の下の怪」です。江戸の怪談をよく知っている方であれば、大奥で行方不明になった女が、何かに憑かれたような姿となって縁の下で暮らしているのが見つかったという話をご存知かと思いますが、このエピソードはそれをベースに、とある商家で起きた同様の事件の謎をお奉行たちが解き明かす物語。
 この真相というのが、冷静に考えてみると、現代のある社会現象そのままのお話ではあるのですが、しかしそこには陳腐さよりも、不思議な説得力が――あるいは原話の真相もそうだったのではないかと思わされてしまうような――ありました。そしてそれは、お奉行の的確な、そして優しい人間観察眼ゆえのものであると言ってもよいのではないかと思います。

 その一方で、人々の運命を狂わせ、更なる数え切れない犠牲者を生み出す元となった――そして回り回ってあの大盗賊を生み出すこととなった――一人の人間の悪意に対しては、容赦のない怒りを爆発させるのも同じお奉行。庶民に優しく、悪人には厳しくというのは、これはもう時代ものの名奉行に必須の条件ではありますが、「耳袋」というフィルターを噛ませることにより、陳腐さを免れているようにも思えます(そしてそれは、お奉行のキャラだけでなく、物語全体に言えることかもしれませんが)。

 さて、連続刊行はこの三作目で終了ですが、一息おいて夏にはシリーズ四作目がお目見えとのこと。気付けば風野作品としては最長のシリーズとなるわけで、ファンとしてはまだまだ楽しみが続くようで嬉しい限りです。


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