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2007.05.28

「邪しき者」 南朝の皇胤、天下を騒がす

 以前、「天保異聞 妖奇士」の記事で「不勉強にして江戸時代に後南朝を登場させた作品は、すぐには思いつきません」などと書いてしまいましたが、すみません、大事な作品を忘れておりました。この「邪しき者」、江戸時代前期を舞台に、南朝の皇胤・新珠尊之介を中心に、尾張義直、江戸・尾張の柳生一族、鄭成功などなど、綺羅星の如き面々が理想の国家を求めて相争う一大伝奇活劇であります。

 ある日名古屋城下に飄然と現れた美青年・新珠尊之介。我流ながら無双の剣の腕と、神懸かり的ですらある無類のカリスマで、周囲の人間を虜にしていく尊之介の素性は、二百年前に吉野に滅んだはずの後南朝の末裔でありました。折しも尾張藩主・徳川義直は無類の勤皇家、大喜びで尊之介を客分として迎えますが、しかし尊之介の存在が、彼の中にあった天下取りの野心に火をつけることになります。
 一方、徳川の世を安定させるため、謀略で次々と敵対者を葬ってきた徳川家光・柳生宗矩らは、義直の叛心を察知して、尾張を取り潰すべく暗躍を始めます。…が、その義直に仕える尾張柳生の柳生兵庫は、代々南朝方であった柳生家の嫡流として義直方につき、柳生同士の激突が始まります。
 さらにこの争いに、祖国復興のために来日した鄭成功・陳元贇らも加わり、いよいよ戦いはスケールアップ。尊之介と義直・鄭成功の驚天動地の天下取りの企み、世阿弥以来常に権力者の傍らにあった能役者たちの正体、吉野山中に秘められた真の八尺瓊勾玉のゆくえ…死闘に次ぐ死闘の末、尊之介たちが掴んだものは――

 と、こうしてあらすじをまとめていても、やはり面白いなあと感心してしまう本作。尊之介や柳生一族の見せる剣戟の数々、政権の座を巡っての虚々実々の謀略戦(成瀬隼人正が格好いいんです…中巻までは)、そして皇位継承を巡る秘宝探索と、時代伝奇を盛り上げる要素がこれでもかとばかりに詰まっているのですから、これは面白いはずです。

 さらに興味をそそるのは、柳生を勤皇の家系ととらえ、それをもって江戸柳生と尾張柳生の死闘に独特の説得力と迫力を与えている点でしょうか。勤皇家としての柳生家については、柳生ものの大先達である五味康祐先生の「柳生武芸帳」にて描かれていますが、本作においては物語の序盤にて、尾張義直の柳生兵庫に向けての「柳生は確か南朝であったな」という神フレーズが炸裂、一気に物語世界に引き込まれました。

 が…個人的にどうしても受け付けないのが、主人公たる新珠尊之介のキャラクター(の薄さ)。先に述べたとおり、無敵の強さを誇り、老若男女誰にでもモテモテの尊之介なのですが――では何故強いのか、何故魅力的なのかと言えば、それが「そう書いてあるから」あるいは「生まれつきだから」としか言えない点に、何ともすっきりしないものがあります。
 強さはまあ置いておくとして、魅力の点については、物語を動かす原動力の一つであるだけに、もっと説得力のある描き方はなかったのかと残念に思います。

 もっとも、本作における尊之介の存在は、その姓たる新珠→荒魂が示すように、一種の神のごときもの、物語の中心にあって周囲の者たちを刺激し動かしていく存在――この意味において、尊之介は、人格を持った柳生武芸帳のようなもの、と言えるかもしれません――として想定されているかと思われます。
 それゆえ、尊之介のキャラクターとしての書き込みの薄さは、作者としてある程度織り込み済みのものであっただろうと想像できるのですが、しかし、このために本作が万人に――特に伝奇入門者に――お勧めとは言い難いものとなっているように感じられるのが何とも残念ではあります。
(尊之介が立川流の修行者で、嬉々として「修業」に励むというのも個人的には違和感ですが、これは完全に趣味の問題でしょう)

 終盤のバトルロワイヤル状態など、本当に尋常でないほどの盛り上がりを見せるだけに、この辺りのキャラクター描写がどうにかなっていればと、つくづく残念に感じるところです。


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