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2007.05.01

「次郎長放浪記」 時代ものとして、ギャンブルものとして

 一部で熱烈なファンを持つこの作品、タイトル通り次郎長、若き日のあの清水の次郎長の姿を描いているのですが、断じて任侠ものではありません。一言で言えばギャンブルもの。それも言うなれば変格ギャンブルもの――勝負のカタに内臓や命を取られたり、人間をコマにしたゲームが展開されたりと…まあそういう類のギャンブルものであります。が、これが最高に面白い。

 大変大ざっぱに本作のあらすじを記せば、平凡な暮らしに飽きたらず家を飛び出した次郎長が、諸国を放浪しての博打稼業の中で、様々な強敵と、そして頼もしい仲間たちと出会っていくという、まあそんな感じの話のはずなのですが、登場するギャンブル、登場するキャラクターのインパクトが大きすぎて、細かい話はもうどうでも良くなってくるのが恐ろしいのです。

 その真骨頂が、これまで発売されている単行本二冊の約四分の三を占める柘榴殿編であります。
 とある賭場で博打はズブの素人である侍・政五郎(人呼んで大政!)と知り合った次郎長は、博打打ちの間では伝説となっている魔の柘榴殿に誘われます。勝てば一攫千金、負ければ身ぐるみはがれるどころか目や鼻を、命までも失うという博打打ちの終着駅である柘榴殿。この柘榴殿で大負けして幽閉された、主家の家老の息子を救い出すという大政の話に乗って柘榴殿を訪れた次郎長ですが――彼を迎えるのは、柘榴殿最強のギャンブラー、その名も石松!
 が、登場時の石松は、巷説とはほど遠い狂気と陰気さをまとった怪人。その石松が次郎長とのファーストコンタクトで迫った勝負は…寿司でのロシアンルーレット。互いに鉄火巻を一つずつ口に入れ、当たった方が負け、というのは、バラエティ番組にありそうな話ですが、もちろんこちらの寿司に入っているのは、山盛りのワサビなどではなく致死量の猛毒。なんとこの柘榴殿、他の賭場同様飲み食い自由の食べ物飲み物はありますが、その半分には毒が混ぜられているという…く、狂ってる。
 その柘榴殿の鉄火巻でロシアンルーレットをやろうというのが石松。そしてその時のセリフというのが「食いねぇ 食いねぇ 寿司食いねぇ!!」なんですからもう…あまりに邪悪なパロディセンスには脱帽です。

 もちろんこれはほんの挨拶代わりで、次郎長と石松が文字通り死命を決することとなるゲームは、柘榴殿双六なる巨大双六。そのルールを大まかに示せば、
・一チームは、コマ役と賽振り役の二人一組
・使う賽は二つ。一つは通常の賽、もう一つは進×2・戻×2・休・枕が書かれている。
・進・戻・休は、もう一つの賽の目だけ進み・戻され・休みとなる。枕はその場でゲームオーバー
・盤には黒いマスがあり、その下には様々なアイテムが用意されている。そのアイテムをコマ役がどう使っても自由。
 この中でもおかし…いや恐ろしいのは最後のアイテム。何があるのかわからないアイテムの中には武器もあり、それを使って相手をヌッ殺してもOK! …既に双六じゃねえ。

 このデスゲームに、大政と共に挑むことになった次郎長。相手は石松と、この柘榴殿の主・保下田久六(きちがい)ですが、ルールを知り尽くした相手に、当然ながら次郎長組は大苦戦することに。一歩間違えて「枕」が出れば一発でスッ飛ぶ上に、黒いマスのアイテムの使い方が文字通り死命を決するのがこのゲーム。目指すのは同じ「上がり」ながら、対戦相手が先に武器を手にしてしまったりしたら、その側に近寄るのも危険なわけで、もう上がりを目指すどころではなくなったり。
 賽を振る次郎長と石松は既に自分の思うままに賽の目を操れて当然のレベルだけに、そうそう「枕」を出すことはありませんが(それでもこの一発逆転の手段を残しているのが心憎い設定)、大変なのは盤上の大政。何せ相手の久六は、文字通りきちがいに刃物を地で行くヤツなので…

 しかし、そんなブッ飛んだ設定の中にも、時代ものらしい仕掛けが織り込まれているのが面白いところ。
 そもそも、公には賭博が禁じられている江戸時代にあって、如何にマンガとて、こんなに堂々と賭博の魔殿が経営されているのはおかしな話。実はこの裏には、巨大な力の影があり、さらにそれが大政のもう一つの、いや三つ目の使命に繋がっていて――と裏を明かされてみれば、ドラマ的に「なるほど!」と、無茶苦茶ながら納得させられてしまう展開となっています。

 もちろん、そうした表裏の仕掛けに負けない、ギャンブルものとしての面白さも、言うまでもなく本作にはあります。次郎長がクソ度胸と正統派のテクニックを武器とする一方で、石松の武器は、駆け引き一切抜きの強運のみ。「運」という、人知が及ばぬ敵がいきなり(プロローグを除けばこの柘榴殿編が最初のエピソードであります)登場しちゃってどうするんだろうと真剣に心配になりますが、そんな相手を駆け引きで打ち破っていくのがギャンブルものの、心理ゲームの醍醐味。次郎長が石松の牙城をいかに打ち破るかは、ここでは触れませんが、決着の痛快さは(そういうオチかい! という愉快さも含めて)実に印象的です。

 何だか柘榴殿編だけの感想になってしまいましたが、実在の人物を使った時代ものであると同時に、ネタっぽさ満載のギャンブルものとしても成立している本作。一見、とてもつながりがあるとは見えない二つの要素が、実にうまく絡み合って、一度読み始めたら止まらない不思議な魅力に溢れています。
 聞くところによれば、この後に待ち受ける、現在雑誌連載中のエピソードは、さらにとんでもないものらしく、いろんな意味で今からドキドキしている次第です。って今月で打ち切り!? き、聞いてないよ…


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