« 「耳袋秘帖 浅草妖刀殺人事件」 「耳袋」というフィルター | トップページ | 「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」 第五回「緋の剣」 »

2007.05.11

「神火兵アビ」 つわものアビ、天を撃つ

 「天保異聞 妖奇士」のえどげんの元ネタ…というか先行作品については先日紹介した「狼人同心」をずっと以前から読んでいたためにすぐわかったのですが、アビにも同様の作品があることは、恥ずかしながらつい先日まで全く知りませんでした。その作品の名は「神火兵アビ」…十二世紀半ばを舞台にしたバイオレンス・アクション短編です。

 大和朝廷に破れ、俘囚として九州に移住させられたエミシの兵(つわもの)一族の村を、ある日平氏の猛将・平景秋が襲撃します。その頃、源為朝の躍進の前に押され気味だった(ということは時期的には1150年代前半の物語ですね)平氏の反撃の切り札として、景秋は、兵一族に伝わる神宝、天をも打ち破るという強弓「破天」を求めて現れたのでした。一族の長の息子で超人的な膂力を持つ青年・アビは一人これに抗しますが、親友の裏切りにあって捕らえられてしまいます。が、なおも続く景秋軍の暴虐にアビの怒りが爆発、それまで誰も引くことが出来なかった破天の力を振るい、侵略者を叩き潰す…というのがあらすじです。

 作画がバイオレンスものを得意とする猿渡哲也氏ということもあってか、正直なところ、本作は良く言えばよくまとまった、悪く言えばパターン通りのバイオレンス・アクションという印象。暴力により弱者を虐げる悪党に、ヒーローの積もり積もった怒りが爆発! というやつですね。
 もっとも、これはわずか数十ページの短編だから、という点も大きいでしょう。どうやら本作には、アビが為朝のライバルとなるという構想があったようで、もしその先の物語が描かれていれば、まつろわぬ者の怒りと哀しみが、よりしっかりと――もちろんは本作にもそうした要素はあるのですが、十全に描かれているとは言い難いのが残念――描かれたのではないかと思います。

 最後に無粋を承知で、「天保異聞 妖奇士」のアビと比べてみましょうか。
 同じ神火の意味の(というのはこちらの短編では語られていないのですが)名前を持ちながら、「妖奇士」のアビが漂泊者としての生き方を――それ以外に選択の余地はないとはいえ――受け入れているのに比べ、本作でのアビは、強い反抗の意志を持って最後まで戦う姿勢を見せているのが大きな差異と言えます。
 これはもちろん、平安時代後期と江戸時代後期という、約七百年の長い時を隔てた二つの時代の在りように起因するものではあります。しかし、通常であれば全く無関係に思えるこの二つの時代を、エミシの在りようという視点から比べてみることは可能なのだなと、いささか牽強付会ではありますが、この二人のアビの在りようから感じたことです。


「神火兵アビ」(猿渡哲也&會川昇 ヤングジャンプコミックス「ダムド」第三巻所収) Amazon


関連記事
 今週の天保異聞 妖奇士
 「狼人同心」 えどげん、生と滅びの端境を行く

|

« 「耳袋秘帖 浅草妖刀殺人事件」 「耳袋」というフィルター | トップページ | 「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」 第五回「緋の剣」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/15029235

この記事へのトラックバック一覧です: 「神火兵アビ」 つわものアビ、天を撃つ:

« 「耳袋秘帖 浅草妖刀殺人事件」 「耳袋」というフィルター | トップページ | 「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」 第五回「緋の剣」 »