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2007.05.03

「るろうに剣心」完全版最終巻 そして新たなる一歩

 和月伸宏先生の「るろうに剣心」完全版が、昨日二日発売の第二十二巻をもって、完結いたしました。本編については、完全版第一巻発売時に語るべきことは語ってしまったので付け加えることは今はないのですが、この最終巻については語る必要があると思います。何となれば、本書にはほとんど幻と化していた後日談短編「弥彦の逆刃刀」が収録されているのですから――

 越後の剣術道場に出稽古に行くこととなった弥彦。が、道場に着いてみればそこは脱走犯に占拠され、弥彦も道場の弟子たちや道場主の娘と共に人質とされてしまいます。実は剣心や弥彦とも意外な因縁を持つこの脱走犯に、一人相対する弥彦は…
 というストーリーの本作、正直なところ雑誌掲載時に読んだ際には可もなく不可もなく…という印象だったのですが、こうして「るろうに剣心」最終巻に収録されてみると、また違った印象で見えてきます。

 弥彦が脱走犯に正面から勝負を挑むというのは、これは少年漫画としては当然のこと。しかしその対決シーンは、比較的あっさりと決着が――弥彦がその逆刃刀を抜くこともなく――ついてしまいます(思えばこの辺りが、初読時の印象につながっているのかも)。
 それではタイトルに謳われている「逆刃刀」の出番は…と言えば、これがまたちょっと意外な形で、弥彦の手によって抜かれることになります。これはさすがにネタバレになるのではっきりとは書きませんが、敵を倒すためでなく、人の命を守るために。

 思えば、剣心が逆刃刀を抜くのは、人を守るためとは言い条、あくまでも敵を打ち倒すためのものでした。それを、本作においてまたそれとは異なった使い方を弥彦が見せるのは――多分に結果論的ではあるのですが――一つの前進であると言えるのではないでしょうか。
 読者に近い視点から本編の物語を俯瞰するためのキャラと言うべき立ち位置にあった彼が、しかしそれに留まらず、苦しい戦いの果てに「新たなる一歩」を踏み出した剣心のバトンを受け取り、立派に走り始めたということが、本作からは読みとれますし、その弥彦の「逆刃刀」のあり方こそは、本編の最終話からさらに一歩踏み出した、新しい時代における剣の――ひいては戦いの在りようを象徴的に示していると感じられます。

 剣心の贖罪の象徴の一つであった逆刃刀――それが、そうした過去からの鎖を持たない弥彦に受け継がれたということは、単なる主人公の継承以上の意味があったと、今更ながらに気付かされたことです。
(そしてまた、その逆刃刀の在りようの変質は、いわゆる「少年誌のバトルもの」を描いてきた作者の方向性の変化をも同時に示しているように思えるのですが、それはまた別の話)


 と、牽強付会にダラダラ書いてしまいましたが、何はともあれ、これにて「るろうに剣心」も大団円。巻末にはムックに掲載されたフルカラーの掌編「春に桜」も掲載されており、完全版の名に恥じない締めくくりかと思います。
 そして、この完全版の刊行が、本作の――さらにまた和月先生の「新たなる一歩」となることを、願ってやみません。


「るろうに剣心 完全版」第二十二巻(和月伸宏 集英社ジャンプコミックス) Amazon bk1

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