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2007.05.19

「武芸十八般」 武術様々、らしさ様々

 俗に武芸十八般と言いますが、さてその中身はなんだろうと、例えば広辞苑を見てみると、日本では「弓術・馬術・槍術・剣術・水泳術・抜刀術・短刀術・十手術・手裏剣・含針術・薙刀術・砲術・捕手術・柔術・棒術・鎖鎌術・もじり(金ヘンに戻。いわゆる袖搦みのことのようです)術・隠形術」とあります。…意外と色々入っていますね。まあ、乱暴な言い方をしてしまえば、「八百万の神」みたいなもので、武芸いっぱい、というか武芸全般を指すものだと思っておけばよいのでしょう。
 と、前置きが長くなりましたが、本書はその武芸十八般にまつわる短編を集めたアンソロジー。剣術(剣豪)もののアンソロジーはそれこそ山のようにありますが、武芸全般をターゲットとしたものは、かなり珍しいのではないでしょうか。

 収録作品は全部で八編。
 「水鏡」(戸部新十郎)-剣術
 「鳴弦の娘」(澤田ふじ子)-弓術
 「野見宿禰」(黒岩重吾)-相撲
 「鼻くじり庄兵衛」(佐江衆一)-鼻ねじ術
 「武太夫開眼」(杉本苑子)-管槍術
 「柔術師弟記」(池波正太郎)-銃術
 「銃隊」(東郷隆)-鉄砲術
 「紀州鯨銛殺法」(新宮正春)-銛打ち術

 最初と最後の作品については既にこのブログでも取り上げていることですし、個々の作品全てについては触れませんが、なかなか面白いチョイスかと思います。

 個人的に、集中のベストを挙げれば、「鳴弦の娘」でしょうか。この作者らしく、京の市井で暮らす人々を描いた作品ですが、主人公は弓術を得意とする浪人父娘。仇討ちの旅に振り回されて不幸のどん底に落ちかかった青年武士と出会った彼らが、その弓術で一肌脱ごうとするのですが…
 終盤で待ちかまえる急展開には誰もが驚き、次にはにっこりして大きく頷きたくなるのではないか、と感じる、素晴らしく爽やかで暖かい読後感の作品であります。

 正直なところ、最初に読んだときはあまりにバラエティに富んでいて戸惑う部分もあったのですが、それはいわゆる「剣豪もの」に慣れすぎていた部分もあったのかもしれません。武術が様々に存在するということは、その存在理由も、術の扱われ方も様々ということであって、それを描いた小説のスタイルも様々ということなのでしょう。上の「鳴弦の娘」も、まさにそれに当てはまる作品かと思います。
 そして何よりも、読んでみれば、それぞれの作品がただ単にアンソロジーのテーマに沿っているだけでなく、いかにもその作者「らしい」作品ばかりがチョイスされていて、感心した次第です。

 …しかし「柔術師弟記」のオチはすごいよな


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コメント

はじめて御邪魔したものです。このアンソロジーは充実してますよね。ぼくは”紀州鯨銛殺法"が気に入りました。

投稿: 富山 | 2008.02.09 19:57

戸山様はじめまして。ようこそお越し下さいました。
「紀州鯨銛殺法」が気に入ったということでしたら、この作品が収録されている短編集「不知火殺法」もおすすめですよ。

投稿: 三田主水 | 2008.02.09 23:28

不知火殺法、図書館で借りてきました。どうやら本屋さんでは手に入らないようですので。

新宮先生の本ですと・・・・・むかし「ゼーランジャ城の侍」読んだ記憶もあります。哀愁といいますか、どこか寂しげな雰囲気が漂ってましたね。

投稿: 富山 | 2008.02.11 22:18

そうそう、「ゼーランジャ城の侍」もそうです。

この「哀愁」は新宮先生の作品のほとんどに共通する要素で…読み終わったあとに、結構切ない気分になるのですよね。

投稿: 三田主水 | 2008.02.13 00:50

ひさしぶりにお邪魔します。このアンソロジー、最初に読んだときは新宮先生にばかり注目していましたが、澤田先生の作品も爽やかでしたね。

じつは・・・・・しばらく前に某ブログ(女性が運営しているところです)で、このアンソロジーを奨めてみたのです。幸い御気に召したようで、ブログ上で好意的に紹介してくれました。ただ、えー、ブログ主さんは柔術師弟記が特に特にお気に召したようで・・・・・嬉しかったけれど少々複雑でした。

投稿: 富山(男性) | 2010.05.28 11:02

富山様、お久しぶりです。
澤田先生の作品は、意外な結末ではあるのですが、しかし十分に納得できる素敵な結末でしたね。

そして「柔術師弟記」は…あれはあれで意外でインパクトのある結末ということで(汗)

投稿: 三田主水 | 2010.06.06 23:19

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