« 「飯綱颪 十六夜長屋日月抄」 人情ものと伝奇ものの不思議な融合 | トップページ | 「武芸十八般」 武術様々、らしさ様々 »

2007.05.18

「源氏九郎颯爽記」 時代小説のおもしろさをここに結集!

 ある作家のどの作品が好きか、という話をしている時に、他人からは「それは違うだろう…」と言われそうだけど自分は何だかこの作品がとても好き! ということは、ままあることなのではないかと思います。私にとって、柴錬先生の作品におけるこの「源氏九郎颯爽記」はまさにそれ。秘剣揚羽蝶を操る美剣士・源氏九郎のまさに颯爽たる活躍を描いた伝奇大活劇であります。

 時は江戸時代後期…主人公の源氏九郎は、白狐の化身かと上から下まで純白の出で立ちに身を包んだ青年剣士。氏素性は不明ながら、白皙典雅の美貌に浮かんだ貴人の相から見るに、およそただ者とは思えません。そしてその彼が操る剣法こそは、伝説の秘剣揚羽蝶。両腕を左右水平に開いて、切っ先を天に向けて直立させるという異様の構えから繰り出される剣はまさに無敵で――つまりは絵に描いたようなスーパーヒーローということになります。

 その彼が活躍する物語は都合二編――正編においては、源義経の財宝の在処が秘められるという水煙剣・火焔剣の争奪戦が描かれ、続編は、バラエティに富んだ四つの事件に九郎が挑む中編集となっています。
 いずれの物語にも、邪剣・魔剣の遣い手に清楚な美女、忠心溢れる忍びに悪女や奸商と、時代エンターテイメントに欠けてはならないキャラクターたちが登場、そこにスーパーヒーローが絡むのですからつまらないわけがない。あの、テンションの高さでは並ぶもののない春陽文庫のカバー折り返しのあらすじをして「時代小説のおもしろさをここに結集!」とまで言わしめたのは伊達ではありません。

 が――この源氏九郎、柴錬ヒーローとしてはいささか特異な存在ではあります。暗い宿業を背負い、男は殺し女は犯す(ってこりゃ物怪野獣郎か)柴錬ヒーロー、心の中に巨大な虚無を抱え、独り彷徨するニヒリストの系譜からは、少々外れている印象があります。
 もちろん(?)九郎もひねくれ者の要素はありですが、彼の場合はニヒルというよりむしろクール。巻き込まれ型ではありますが、心の中に確たる正義感があると――そう感じられます。すわなち、従来の大衆文学のヒーロー像の延長線上にいるのが、この九郎と言えましょう。

 これは表現を変えれば、彼がよくあるヒーローであり、さらにキツい言い方をすれば、新味のないキャラクターであるということでもあるわけで…なるほど、柴錬ヒーローの代表格である眠狂四郎と比べれば、その点で大きく水を開けられているとも言えます。
 ちなみに本作の執筆時期は、この眠狂四郎の執筆時期ととほぼ同時期の昭和三十年代初頭ではあるのですが、あちらがその後も一大シリーズとして二十年近く書き継がれたのに比べれば、本作は上記の通り二編きり。まことに寂しい状況ではあるのですが、それはまあ、エポックメイキングなヒーローと、既存の延長線上にあるヒーローの違いというものかな…とは思います。

 が、それが作品自体の出来不出来、キャラクターの魅力の有無にそのまま繋がるかと言えば、答えはもちろんNo! なのは、既に述べた通り。
 普段散々ひねくれた作品ばかり読んでる私のような人間にとっては、九郎のようなストレートなヒーローがむしろ心地よく感じられますし、また、その定番ヒーローぶりは、ある意味時代を超えて通用するものがあるのでは、いやむしろ今みたいな時代には、九郎のような問答無用のヒーローの方が受けるのでは、と個人的には思っている次第です。

 間違えても本作を大名作、とまで言うつもりはありませんが、素直に格好いい時代劇ヒーローに出会いたければ、本作は自信を持っておすすめできます。


「源氏九郎颯爽記」(柴田錬三郎 春陽文庫) Amazon bk1

|

« 「飯綱颪 十六夜長屋日月抄」 人情ものと伝奇ものの不思議な融合 | トップページ | 「武芸十八般」 武術様々、らしさ様々 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/15110817

この記事へのトラックバック一覧です: 「源氏九郎颯爽記」 時代小説のおもしろさをここに結集!:

« 「飯綱颪 十六夜長屋日月抄」 人情ものと伝奇ものの不思議な融合 | トップページ | 「武芸十八般」 武術様々、らしさ様々 »