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2007.06.30

「時代伝奇」とは何か?

 本ブログの毎日更新を始めてから、二年以上が経ちました。ニッチにもほどがあるこのブログが、曲がりなりにも二年間毎日更新することができたのは、私の意地もありますが、もちろん何よりも、拙文を楽しんで下さっている方々の目あってのこと。ここに厚く御礼申し上げます。
 と、今日書こうと思っているのは以前より考えていたこと。それは「時代伝奇」とは何か? …今頃ですが。

 一体、「伝奇」「時代伝奇」と、数え切れぬくらいこれまでブログ等の中で使ってきましたが、それでは「伝奇」とは、「時代伝奇」とは何か。
 まず「伝奇」について――大上段に振りかぶっておいて何ですが――直接的ではなく、いささか迂遠な表現をすれば、それは
「現実を写す奇妙な鏡」
なのではないかと思っています。
 私にとっては、すべからく物語――いや、調子に乗って言えば芸術というものはみな――というものは、現実を写す鏡と考えています。それは、この世界に存在するある現実を映し出すこともあれば、手にした者の内面の真実を映し出すこともあり、それはもうこの世に無限に存在するものではあるのですが、直接的にせよ間接的にせよ、現実なしには存在し得ないものであります。

 それでは、ここでその鏡の一つである伝奇を表するに、「奇妙な」という語を用いたは何故か。
 それは、この鏡が、素直に目の前にあるものを映し出しはしないため。現実というやつが真っ正面に置かれているにもかかわらず、ある時は後ろ側から、またある時は真上から、さらにはその内側から――通常の鏡では映し出すことも叶わないものを、この「伝奇」というものは、映し出す(ことができる)ものなのであります。

 そしてまた、その「伝奇」の一態様が「時代伝奇」であるとして、その「時代伝奇」ならではの特質は何か、ということを考えれば、その鏡の作り手・操り手にとって、対象となる現実を(大幅に)作り替えることができない、やってはいけないということではないでしょうか。現実は――つまりここでは正史や史実と呼ばれるものは――不変であります。
 もちろん、「時代伝奇」物語の中では、「実は○○は死んでいなかったのだ」「実は××は△△だったのだ」というのは日常茶飯事ではありますが、それは鏡の映す像の姿が変わっているだけ、対象たる現実自体は変化していないのです(現実を変容させる物語というのもありましょうが、ここでは触れません)。
 わかりやすく例えれば、「実は明智光秀は生き延びて天海僧正になったんだよ!」というのは「時代伝奇」で、「織田信長が生き延びて天下統一して織田幕府作りました!」というのは別物、「架空戦記」になっちゃう、ということ。あ、何だか急にベタな話になってきた。
 もちろん架空戦記には架空戦記の良さがありましょうが、確として決して変えられぬ現実――現在の現実や未来の現実を変えることはできても、過去の現実ばかりは変えることはできません。原則的に――に対して、如何に鏡を磨き上げ、如何に配置するか、それによって変わらぬ現実の奇妙な像を映し出してみせる。その像ももちろんですが、その行為自体に、私は大いに興味と、共感を抱くものであります。

 閑話休題。さて、この奇妙な鏡を構成するもの、喩えで言えば材質は、と問われたら、それは「エンターテイメント性」というものではないかと思います。もちろん、他ので、似たような機能・効果を持つものも作れることは作れますが、それはおそらくそもそもの目的を異にする、別物でありましょう(例えば「政治性」などを材料にすると「偽史」になるのでしょう)。
 鏡像それ自体を楽しむことはもちろん、その鏡自体をも――往々にして鏡とそれに映る像を切り分けることは困難ですしあまり意味はないかもしれませんが――楽しむことができる。それが私にとっての「伝奇」「時代伝奇」であります。

 ダラダラと書いてしまいましたが、これをもう少し普遍的に、より定義らしい形で示してみれば、「時代伝奇」とは、
「史実を基盤として、エンターテイメント性の強い手法を用い、巷説や裏面史、もしくはあり得たかも知れない事物を描いたもの」
とでもいうことになるでしょうか。
 もちろん、実際に厳密に定義として見た場合には、カバーできる範囲の密度にムラがありすぎることは間違いありませんし、何よりも私のサイトで扱う作品の範囲と必ずしもイコールではありません。
 それでも、私が普段何を考えて自分のサイトで扱う作品のチョイスを行っているか、何となくわかっていただけるのではないかな、と考える次第です。

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