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2007.06.28

「世話焼き家老星合笑兵衛 義侠の賊心」 奇想天外、痛快無比!

 個人的にはいま最も楽しみにしているシリーズの一つである、中里融司先生の「世話焼き家老星合笑兵衛」シリーズの最新巻が、この「義侠の賊心」。海を渡ってきた凶賊を退治るため、星合一家がまたもや奇想天外な作戦を展開することとなります。

 夜の海で溺れかけていた少女・ハンナ(花)を救った星合家の蛍と桜。折しも江戸では凶悪無惨な押し込みが続発していたところ、その賊は、実は海を渡ってきた海賊であると花は語ります。日本からの漂流民である父と異国人の母の間に生まれた花は道案内として、海賊たちに連れてこられたところを逃げ出したのでした。
 早速花を救い、凶賊を捕らえるべく活動を開始する星合一家ですが、裏の世界の相手と戦うには、同じ裏の世界の住人が必要と、笑兵衛は何と大盗・雲霧仁左衛門との同盟を画策。さらに海賊の背後に、将軍吉宗に恨みを持つ武家の存在を知った一家は、幕府御金蔵を狙う一味を一網打尽とするため、奉行所、そして盗賊と一致団結して史上類を見ない三軍合同の計略を仕掛けることとなります。

 第一作から、これはあり得ないだろうという大きすぎる難題と、それを突破する豪快な作戦で楽しませてくれる本シリーズですが、もちろん本作でもそれは健在。御金蔵破りという大胆不敵な悪事を企む一味に対して、星合一家が、頼もしい仲間たちに加え、雲霧を初めとする日本盗賊軍団と、本来であればその宿敵である大岡越前ら奉行所、さらには何と将軍吉宗まで引っ張りだして挑む作戦は、痛快無比、としか言い様がありません。
 私の勉強不足であれば申し訳ありませんが、こうした大仕掛けのギミック/トリックを全面に押し出した時代小説、特にシリーズは相当に珍しいものではないかと思いますし、それだけでも本シリーズを手にする価値はあるかと思います。

 と、もちろん、本作が単なる鬼面人を驚かす体の、珍しさだけの作品ではないことは言うまでもない話。笑兵衛をはじめとして、老若男女一人一人が十分主役を張るに足るほどに個性的な星合一家が、それぞれの能力を生かして活躍する様は、実に楽しく頼もしく、この辺りのキャラの見せ方のうまさは、さすがこの作者ならではと感じさせられます。
 そしてまた彼らの原動力となっているのが、他人を幸せにするためのお節介、世話焼きであるのが何とも気持ちの良いところ。本作で繰り広げられる星合一家の大作戦は、もちろん凶賊から江戸の町を守るためでもありますが、何よりもまず、数奇な運命に見舞われた混血の少女・花を救うためというその心意気が嬉しいではないですか。
 以前にも書きましたが、星合一家の世話焼きは、力を持つ者が力を持たぬ者のためにその力を揮うという、一種のノーブレス・オブリージュとも言うべきもの。この、真の意味での武士道とも言うべき彼らの世話焼きスピリットこそ、本シリーズの最大の魅力ではないかと思います。

 誠に口惜しいことに、そのクオリティに相応しい評価を受けているとは言いがたい本作、本シリーズではありますが、一人でも多くの方がその魅力に触れてくれることを期待している次第です。


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