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2007.06.29

「絵巻水滸伝」第七巻 軍神独り行く

 またもや次の巻が発売されてからの紹介となってしまいはなはだお恥ずかしい話ですが「絵巻水滸伝」もいよいよ佳境、第七巻では奇怪な妖術を操る高廉、そして軍神の異名を持つ最強の敵・呼延灼将軍が梁山泊の前に立ち塞がります。

 単純に武力という点では大宋国有数の勢力となった梁山泊ではありますが、この巻で彼らが戦うこととなる高廉と呼延灼は、それぞれ全くその得意とするものは異なるものの、梁山泊と互角以上の力を持つ強敵。この辺りは、原典でも中盤のクライマックスであった件ではありますが、原典の魅力は幾層倍にも増して見せ、そして原典の足りない部分もしっかりと補ってみせる「絵巻水滸伝」だけに、やはり素晴らしい盛り上がりでした。

 原典では強敵ではありながら、謎の部分も多かった高廉を、公孫勝一清道人の破門された兄弟子と設定することにより、キャラに奥行きを持たせると同時に、クライマックスである二人の道術合戦に必然性を持たせたのは、まずお見事と言えます。
 しかしそれ以上に見事なのは、呼延灼のキャラ立てとドラマでしょう。宋建国の功臣の末裔であり、自身も歴戦の勇者。そして最強の連環馬戦術の使い手というのは、設定としては最高ですが、しかしそれが一人のキャラとしての動きを逆に縛りかねないのも事実であり、そしてそれ以上に、そんな人物が何故梁山泊に加わることになるのか、説得力を持たせるのもまた難しいところでもあります。
 本作では、その無敵であったはずの呼延灼が、規格外れの梁山泊の戦いに苦戦し、股肱と頼む部下を失い、揺らぐ中で、軍神から一個の人間として目覚め、解放されていく様が、新旧多彩なキャラクターたちとの関わりを交えて描かれているのが工夫と言うべきでしょうか。何よりも、度重なる戦いの中で、敗れ、裏切られ、全てを失った呼延灼が、最後の最後で勝利者として讃えられる結末は、幻想的とすら言える挿し絵の美しさもあり、実に熱く感動的な、本作きっての名場面と言えるかと思います(この場面は、ま晁蓋の男っぷりのよさがまた…)。

 と、ほとんど呼延灼が主人公とも言えるこの第七巻ではありますが、もちろん彼以外の英雄豪傑たちの活躍も痛快の一言。特に後半では、これまでの物語の中で主役級の活躍を見せ、梁山泊とも縁の深い魯智深・武松・楊志といった、水滸伝でも名うての豪傑たちが再登場し、新参者に負けてなるものかと大暴れしてくれるのもたまりません。
 …が、個人的に一番感動させられたのは、これまた久々に登場した打虎将李忠に魯智深が掛けた言葉。はっきり言って名前負けのB級豪傑、今はチンケな山賊稼業の李忠が、男としての誇りを取り戻した、その言葉は、本作を冒頭から読んでいる読者であれば必ずやジンワリくるであろう見事なもの。
 絵の見事さは今更言うまでもないことながら、わずか数行で、豪傑たちの個性をググッと掘り下げてみせる、その文章の力も、本作の魅力であると再確認させられた次第です。


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