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2007.06.19

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 氷もまた熱し

 十乗坊の犠牲により、追っ手の一部を退けた(同士討ち)させた一行。しかしなおも芦名衆は執拗に迫ります。そこに、お千絵お笛と薬師坊を先に行かせて残ったのは三人の坊さん。何のために残ったかは明々白々ですが、しかしどのようにしてそれを成し遂げようというのか?

 と、両手に簑笠持たせた心華坊をカムフラージュに、何処かに消えた嘯竹坊と竜王坊。ここまでは十乗坊と同じパターンですが、しかし雑魚とはいえ芦名衆、同じ手がそうそう使えるわけはなく、そうこうしているうちに、ついに上陸してしまった芦名衆の一団ですが――その足下の氷から飛び出してきたのは、二本の白刃。なんと氷の下の水中から突き出した刃は、円を描くように足下の氷を大きく丸く切り取り…ついに切り取られた氷は重みに耐えかね、芦名衆もろとも水中に没します。
 もちろん水中から氷を切ってのけたのは、嘯竹坊と竜王坊。二人は会心の笑み(本当にイイ笑顔なんだこれが)を浮かべて「心頭滅却すればァ」「氷もまた熱しィ」と、勝ち鬨を上げますが、これは先週書いてしまったとおり、沢庵と同じ臨済宗の傑僧・快川が、織田信長の軍に寺に火をかけられたときに残した「安禅必ずしも山水をもちいず,心頭滅却すれば火も亦た涼し」のもじり。
 こんな時にまで洒落を言っている余裕があるとは――いや、これは次の瞬間に襲ってくるあまりに確実な死の運命を覚悟してのものだったのでしょう、芦名衆の乱刃により二人は無惨にも血煙の中に沈むのでした。

 しかし水中に投げ出された芦名衆は、仲間に救出されるどころか、こちらの舟に寄ってくるなと白刃もて追われる始末。そういえばこいつら、前回仲間に同じことやってたのが、そのまま自分の身に返ってきたことになります。因果応報とはまさにこの時のためにある言葉でしょうか。しかし指落とされるのは本当にイヤだなあ。

 一方、二人の犠牲にも関わらず、氷の上に穴を開けるのに夢中の心華坊。まさか人一人分くらいの大きさに広げた穴を落とし穴にするわけでもあるまいに…と、芦名衆の投じた槍が全身に! 
 と思いきや、彼の身は、槍もろとも己の開けた穴から湖底深くに消えていくことに…そう、彼は敵を倒すことこそなかったものの、芦名衆にとって圧倒的なアドバンテージであった飛び道具である槍を封じたのでありました。


 …いやはや、前回の十乗坊に引き続き、今回の三人の坊さんの活躍をなんと表すべきか。己の命を代償としたとはいえ、ほとんど徒手空拳の状態で彼らが挙げた「戦果」は、常人のよくなし得るところではありません。原作者である山風先生は、後にこの場面を、氷の下から日本刀で氷を斬るというのはさすがに無理があったと評していたように記憶していますが、作者をも呆れさせた彼らの活躍、以て瞑すべしでしょう。

 そして、前回を含め、彼ら坊さんたちの「活躍」を目にしたときに、感動と、それと同時に戦慄すら感じさせられるのは、彼らがみな、己の行動の結果として確実に訪れる死に対し、莞爾とした笑みを浮かべていたことでしょう。決して自棄になったのではなく、感覚が麻痺しているのでもなく、ただ、おそらくは彼らが、沢庵と十兵衛の掛け合いに、堀の女たちのやりとりに、ごく普通に浮かべていたであろう優しい笑み――果たしてどのような修行を重ねれば、このような笑みが浮かべられるのか。あるいは彼らの行動が、堀の女たちの、そして会津の人々の未来を切り開くと信じていたがゆえのことかもしれませんが、いずれにせよ、彼らもまた、快川や沢庵にも負けぬ傑僧であったことは間違いありません。

 さて、追っ手の戦闘能力を相当なまでに奪ったとはいえ、こちらの味方はもはや三人。怒り狂った芦名衆に追いつかれれば圧倒的に不利なことは言うまでもなく、さていまだ続く窮地から如何にして逃れるか!? というところで一週空くのは、これは殺生ですがな…

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