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2007.06.16

「討たせ屋喜兵衛 斬奸剣」 パターン破りのヒーロー誕生

 これだけ毎月文庫書き下ろし時代小説が発行されると、どうしてもパターンというものが出てきます。その一つが「○○兵衛 ××剣」という浪人剣士が主人公の作品。主家の陰謀に巻き込まれ藩を捨てた文武両道の主人公が、江戸の市井で暮らしながら様々な事件を解決していくというあれです。
 もちろんこれはこれで大いに楽しい、王道の一つと言って良いものではありますが、さすがに毎日毎日時代物を読んでいる身からすると、些か食傷気味になるもので、もう少し変わった味わいはないのかな…という気分にもなりますが、そこで本作。中里融司先生の代表作と言うべき「討たせ屋喜兵衛」シリーズの第一弾です。

 主人公の鈴鳴喜兵衛は、算勘に優れ、さらに剣の腕も達人クラスという男。奥州三善藩で藩政改革に燃える次席家老の下での仕事に勤しむ喜兵衛ですが、ある日藩の守旧派により家老は暗殺、かろうじて刺客を討ち果たすも、かえって自分が下手人の濡れ衣を着せられて逐電する羽目になります。わずかな伝を辿って江戸に出てきた彼ですが、その後ろからは刺客の娘たちが仇を討つべく追ってきて…

 …と、これだけ書くと、まるっきり冒頭のパターンそのままですが、しかし、本作がそんなパターンの裏をかくように愉快なのは、主人公たる喜兵衛さんが、どうにも弱気で、強気な相手にはすぐ押し切られてしまう性格という設定。自分の方が正しいとわかっていても、相手から強弁されると思わず引き下がってしまうという、時代劇の主人公にあるまじき性格なのですが、だがそれがいい。
 陰謀と悪意が縦横に張り巡らされ、その網にかかった善男善女が無惨な最期を遂げる中で(正直なところ、個人的な趣味から言えば人が死に過ぎな印象はありますが…女性キャラの殺し方も酷いにもほどがあるものがありましたし)、武士でありながら武士でない、強いけれど同時に弱い、実に人間的な喜兵衛の存在は心休まるものがあります。そして、そんな彼ですら見過ごしにできぬ悪への怒りが遂に大爆発するクライマックスは、彼の普段のキャラがキャラであるだけに、そのカタルシスも幾層倍に感じられることです。

 そしてもう一つパターン破りなのは、喜兵衛が営むこととなる稼業・討たせ屋。本作はシリーズ開幕篇にして討たせ屋誕生篇といったところで、討たせ屋の名が登場するのは物語のラストゆえここでは詳細は語りませんが、少なくとも私の浅い知識の中では似たアイディアはほとんどなかったかに思える、ユニークかつなるほどと感心させられる稼業であります。

 さて本作の幕が上がるのは元禄十四年。この年に起きたある事件が、後に史上最も有名な仇討ちへとつながっていくわけですが…まずまちがいなく、その渦中に討たせ屋喜兵衛も巻き込まれていくはず。果たしてその中で彼がどのような役割を果たすのか、楽しみです。


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