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2007.06.24

「極東綺譚」第一巻 土俗的怪異と南方の海洋幻想と

 明治末期を舞台に、全身に奇怪な刺青を施した異端学者・九鬼銃造が、人に咲く花の巻き起こす怪事件に挑む伝奇ホラーの第一巻です。遊郭の少女の胸から花びらがとめどなく湧き出る事件を皮切りに、奇怪な人媒花を追って、聖なる塩の力を操る九鬼の冒険が繰り広げられます。

 全体を通じての印象は――即物的な表現で恐縮ですが――大塚英志の作品から民俗学的色彩を薄めて幻想味を増したような作品、とでも言ったところでしょうか(そういえば作者の衣谷氏は、「リヴァイアサン」で大塚英志と組んでいましたな)。近代国家として成立しつつも、未だその周辺に、いやその内部に前近代的な闇の部分を抱えた明治の昏い部分を背景に、「“潮”の“難”には“南”の“塩”」と、怪異に対して塩の浄化の力で立ち向かう主人公というのはなかなかユニークだと思います(草薙剣=塩という異説には少々驚きましたが)。
 また、画力については折り紙付きの衣谷遊氏によるものだけに、次々と登場する異形のビジュアルイメージは圧倒的としか言いようがないクオリティ。特に、終盤のフジツボ人間出現から太古の海中を思わせる異界からの逃避行の件描写など、久々に漫画の絵で怖気立ちました。

 とはいえ――九鬼の過去や目的などが第一巻の段階では明確に語られることがなく、また各話の冒頭に挿入される幻想的・観念的イメージがさらに混乱を招く面があって、取っつきにくい部分はかなりあるというのが正直なところ。この辺りは、本作のスタイルかと思いますので、物語が進行してもさほど変わらぬ部分かと思いますし、その意味では、読む人を選ぶ作品かと思います。

 しかし個人的には、物語的にも画的にも、日本の土俗的怪異と南方の海洋幻想という、あまり結びつくことがなさそうな二つの要素を巧みに縒り合せるという本作のスタイルはなかなかに蠱惑的で、来月発売の二巻も読んでみたいと思います。


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