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2007.07.26

「柳生大戦争」第三回 大戦争とは何だったのか

 さて、前回あまりと言えばあまりのネタっぷりに思わず取り乱してしまったほどの怪作「柳生大戦争」ですが、連載第三回の今回で最終回。さてその内容はと言えば、意外や意外、ネタ度は極めて低い歴史小説的な展開(ファンにわかりやすく言うと、「魔風海峡」「魔岩伝説」の後半的展開。要するに主人公たちがほとんど何も出来ずに歴史のうねりを目撃するという…)であり、柳生の三兄弟を目撃者に、李氏朝鮮が女真族の清により蹂躙されていく「丙子の乱」の様が、描かれていくこととなります。

 朝鮮王・仁祖の反清親明路線の高まりの行き着くところにより、遂に朝鮮への攻撃を開始した清。この清国皇帝ホンタイジの側に仕えていたのが、前回日本を追われ、そしてまた朝鮮をも追われた漂泊者・柳生友矩。そしてまた、その友矩を討つために海を渡った十兵衛と宗冬は、朝鮮側の賓客として迎えられ、ここに日本にとっては異国である二つの国家に、柳生の兄弟が分断されて滞在することになります。
 そして物語は、主に三兄弟の目を通しつつ、この清と朝鮮の「大戦争」の有様を描いていくこととなります。ここにおいては三兄弟はほとんど傍観者の立場。幾度か小競り合いはあるものの、結局巨大すぎる歴史のうねりの中では柳生の剣の力も微々たるもの、狂言回しというか、荒山先生自らが記すようにダシ扱いであります。なるほど、ここに来て「大戦争」とは何のことであったか、ようやくわかりました。図られた!(もっとも、第三者として、そして戦争を知らない世代の代表として、この戦争を目撃した十兵衛と友矩の心中描写についても、何とも切なくも重いものがあり、これはこれで大いに意味のある設定であったと思います。が…)

 荒山先生には、以前古巣の読売新聞のインタビューに答えて「作品に伝奇色を持ち込んだのは、歴史に関心の薄い今の読者が手に取りやすくするため。本当の狙いは、日本とコリアの密接な交渉史を知ってもらうこと」という発言がありましたが、最初見た際にはには、またまた先生ご冗談を…と失礼ながら思ったこの発言が、豈図らんや、真実からの言葉であったとは!

 そんな失礼極まりない感慨はさておき、真面目な話をすれば、初の朝鮮通信史来日を祝う江戸の呑気な有様と、朝鮮王が清太宗に文字通り膝を屈する悲惨な有様を並列して描いてみせた部分には、読んでいて震えが来ました。(内実はともあれ)日朝史に記念すべき出来事と、中朝史上の不幸な戦争がほぼ同時期に起きていたとは! まさしく「信長だの深川だの」の読者である身(…一般人面するなって?)にとっては、全くもって驚きの一言。まさにこの時のために、この物語はあったのではないか、とすら思えます。

 一方、荒山ユニバース的には、「処刑御史」や最近の祥伝社の短編で活躍していた妖術者・安巴堅(の名をこの時代に継いだ者)が登場。一種のファンサービスかと思ったら、それがラストに来てとんでもない結末に物語を導くことに…
 この山風の某作品へのオマージュと思われるラストの展開は、ネタとしては非常に面白いですし、連載全三回それぞれで時代も舞台も登場人物も異なる本作において、背骨をきっちりと通ったものとして評価できるのですが、上に記した通り、これまで十兵衛や友矩たちが見て、感じたものが、無に帰すようなオチはどうだったのかな…という気持ちが正直いたしました。それこそが歴史の皮肉と言えばそれまでですが――
 また荒山ファン的には、荒山ユニバースの中核をなすであろうこの世界観でのこの結末を、今後どのように扱っていくのかが大いに気になるところではあります。

 …そして、一見殊勝な態度を取るようでいて、司馬遼太郎先生に公開説教を喰らわす大人げなさには、何というか、これまでとはまた異なる執念のようなものを見た思いで、ある意味感動いたしました。


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