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2007.07.03

入門者向け時代伝奇小説五十選 3.忍者もの

 剣豪と並んで時代伝奇小説の華といえば忍者。入門者向け時代伝奇小説五十選の第三回は、そんな忍者にスポットライトを当てて作品をチョイスいたしました。古典から期待の新鋭の作品まで、様々な形での忍者の活躍をご堪能下さい。
11.甲賀忍法帖
12.赤い影法師
13.真田十勇士
14.御三家の犬たち
15.黄金の忍者

11.「甲賀忍法帖」(山田風太郎 講談社ノベルスほか)
甲賀忍法帖 (講談社ノベルス) 忍者もの一番手は、あまりにも鉄板で恐縮ですが、山田風太郎の忍法帖第一作を。徳川三代将軍を決するためのゲームの駒として選ばれた甲賀卍谷と伊賀鍔隠れ、各十名の死闘を描いた本作は、つい先頃、「バジリスク」のタイトルで漫画化・アニメ化され、若い世代にも山風と忍法帖の名を知らしめた名作です。
 それぞれ奇怪極まりない――それでいて医学的合理性を備えた――「忍法」を操る二十人の忍者の戦いは、いわゆるトーナメントバトルの鼻祖として記憶されるべきものであると同時に、権力者の意志に翻弄される恋人たちの姿をも描き出している本作は、単なるバトルものに留まらぬ味わいを湛えた名品として、この先も多くの読者に愛されていくことでしょう。
 山風忍法帖は、本作以降、長短合わせて数十編書かれていますが、いずれもユニークな忍法と、歴史感覚(パロディセンスと言い換えてもよいでしょう)に貫かれた名品揃い。本作の次のステップとしては、講談社文庫に収録された諸作をお勧めしておきます。


12.「赤い影法師」(柴田錬三郎 新潮文庫)
 もう一作、忍者ものの古典的名作を。三代将軍家光の御前で行われたという、いわゆる寛永御前試合十番を背景に、伝説の忍者「影」の娘と服部半蔵の間に生まれた若き天才忍者「若影」の暗躍を描いた柴田錬三郎の代表作の一つです。
 御前試合に出場する十組二十人の武芸の達人が繰り広げる決闘模様を縦糸に、その勝者を次々と襲い、賞品として与えられた刀を奪う「若影」の姿を横糸にした本作は、そのエンターテイメント性・伝奇性はもちろんのこと、いかにも柴錬らしい独特の乾いた美意識に貫かれた名作であります。
 剣豪作家として知られる柴錬ではありますが、本作やその続編「南国群狼伝」のように、忍者を主役とした作品も少なくありません。本作の他では、伝奇の宝箱とも言うべき短編連作「柴錬立川文庫」の猿飛佐助ものなどは、ぜひ一度手に取っていただきたいところであります。


13.「真田十勇士」(笹沢左保 電子文庫パブリほか)
猿飛佐助諸国漫遊―真田十勇士〈巻の1〉 猿飛佐助と言えば真田十勇士。このヒーローたちを描いた作品は、長短枚挙に暇がありませんが、ここではその中でも決定版と言うべき、笹沢左保の作品を挙げましょう。智将・真田幸村一の臣である猿飛佐助が、幸村の股肱の臣たるべき勇士を求めて諸国を巡る発端から、十勇士集結、豊臣・徳川の開戦、そして凄絶な決戦からその結末に至るまでを描いた本作は、設定的にはオーソドックスですが、面白さは折り紙付きの伝奇活劇であります。何よりも、個性的な十勇士が背負った過去、あるいは彼らが出会う事件それぞれが、みな実に伝奇色濃厚で、さながら戦国意外史の感すらあります。
 本作は全五巻十六話と、分量的には多めですが、中編を積み重ねた連作形式となっているため、スムーズに読み進めることができるのもお勧めの点です。また、本作は原作にかなり忠実な形で岡村賢二により漫画化されておりますので、まずこちらから、というのも良いかも知れません。


14.「御三家の犬たち」(南原幹雄 徳間文庫)
御三家の犬たち (徳間文庫) これまでに挙げた作品の忍者は、いずれも超人的な能力を備えた忍者個人の活躍・戦いを描いた作品ですが、御三家の犬――徳川の御三家それぞれに仕える忍者たちを通して徳川第八代将軍の座を巡る暗闘を描いた本作は、個人の争闘に留まらない、よりマクロな視点からの描写が特徴的な作品です。
 南原作品の特長の一つとして、伝奇エンターテイメントに、当時の政治・経済のシステム(特に後者)を絡めた展開がありますが、本作もその一つ。スパイスリラー、ポリティカル・フィクション的要素を加味することにより、伝奇ものとしての楽しさはそのまま、従来の忍者ものになかったスケール感を与えることに成功しているかと思います。
 「御三家」ものは、本作のほか「御三家の黄金」「御三家の反逆」と発表されており、また、現在絶版ではありますが、幕府の秘密機関・中町奉行所の同心たちの隠密行を描く「灼熱の要塞」「北の黙示録」なども、南原伝奇を存分に味わうことができる名品です。


15.「黄金の忍者」(沢田黒蔵 学研M文庫)
黄金の忍者―伊賀暗闘録 今回最後に取り上げるのは、忍者小説の期待の新鋭の代表作。天正伊賀の乱から本能寺の変に至る激動の時代の流れに翻弄されつつも、自分自身の戦いを模索していく伊賀忍者・江ノ市之丞の姿を描いた作品です。
 誰が敵で誰が味方かもわからぬ無明の闇の中で、幾度も傷つき、裏切られる市之丞の姿を、リアルでハードなタッチを基調として描くだけでなく、彼が求める究極の忍者像「黄金の忍者」の謎を一方に配置することにより、一種の伝奇ヒーロー活劇的色彩をも与えることに成功している本作。ここに並行して存在するリアルさと伝奇性は、そのまま忍者の持つ、影と光それぞれの側面を描いているやに感じられ、興味深いものがあります。
 本作はその後、続編続々編が発表されていますが(現在シリーズが途絶しているのが残念)、作者はこの他にも「不問ノ速太、疾る」「忍び鬼天山」「真田の狼忍」といった忍者ものの佳品を発表しており、昨今、存外に刊行数の少ない忍者小説において一人気を吐く存在と言えるかと思います。


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コメント

赤い影法師は傑作ですね
映画版もヒドくはなかったです。

投稿: coldsleeper | 2013.04.19 06:27

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