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2007.07.19

「若狭殿耳始末」 室町よりの闇電話

 異形コレクションで私的に注目しているのは、何と言っても朝松健の室町伝奇もの。全巻に執筆しているわけではないとはいえ、登場の際には、どのようなテーマでも室町伝奇――それも水準以上の――に結びつけて描いてみせる作者の力量には、いつもながら感心しているのですが、本作「若狭殿耳始末」はそんな中で、異形コレクションのうち「闇電話」に収録された作品です。
 若狭守護・一色義貫とその正室・茅野局を襲った恐怖を描いた本作は、当然ながら電話というものがいまだ発明されていなかった時代を舞台としていますが、さてそんな中で如何にして電話の怪を描いたものかと言えば…

 幼い頃の義貫と茅野が、城の倉で見つけたもの――それは、義貫の父が救った南蛮の難破船の乗員が遺したと思しい陶製の首でした。陶製でありながら、生身の温もりと感触を持つ奇怪な耳と唇を持つその首を玩ぶうちに、その二つが取り外し式になっていたことに気づいた二人は、更に、その耳を男が、その唇を女が使うことにより、遠く離れても互いの言葉を、周囲の音を聞き、伝えることができることに気づきます。が、二人が面白がって使ううちに、伝わってくる音の中に奇怪な声が入り交じるようになり、そして耳と唇から奇怪な粘液が滴ってくるに至り、恐れをなした二人はそれをしまい込むのでした。
 それから二十五年後。仲睦まじい二人を見て茅野に横恋慕したた暴君・足利義教(この人も一休の次くらいの常連ですね)は、彼女を奪うために義貫を亡き者にせんと、次々と周囲に戦を仕掛けては、義貫をそれに送り込みます。その中で辛くも生き延びつつも、義教の悪意を悟った二人が、戦場と若狭に引き離された中で互いの安否を確かめ、義教の奸計に立ち向かうために持ち出したのは、あの陶の耳と唇。その力で繋がりあう二人ですが、やがて耳と唇からは、忘れていたあの奇怪な声と粘液が――

 そしてこの奇怪な耳と唇が二人にいかなる音の地獄をもたらしたか、そしてその顛末については、ここでは伏せますが、なるほど、厳密には「電」話ではなものの、遠くの者と会話をし、相手の言葉を聞くことができるという電話の機能そのものが内包する、しかし普段は気にも留めていなかった恐怖を描いており、その意味では立派な電話ホラーだわい…と感心いたしました。
 音の地獄の描写が少な目なのが残念ではありますが、作品全体を覆う奇妙な不安感といい様々な意味でのグロテスクさ――なるほど室町バロックとは言い得て妙です――といい、朝松室町伝奇としてなかなかに魅力的な作品であって、単行本への収録が待たれるところです。


「若狭殿耳始末」(朝松健 「異形コレクション 闇電話」所収) Amazon

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