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2007.07.30

「次郎長放浪記」第三巻 神の王国で最後の勝負!?

 若き日の清水次郎長が、次々と現れる狂ったライバルたちと、狂ったルールのゲームで対決する変態ギャンブル漫画として、一部に熱狂的なファンがついていた漫画版「次郎長放浪記」。惜しくも先日第一部完、となってしまい、そのファンの一人である私も涙を呑んだのですが、その第一部完結巻が発売されました。
 今回次郎長が対決するのは、流刑島の支配者・狂人クーマン神父。暴力とカリスマ、そしてギャンブルの腕で村人と罪人たちを支配する怪人と、次郎長が命懸けの勝負(いつも)を挑むこととなります。

 以前柘榴殿から奪回した将軍家お墨付きが元で、父は切腹、弟は流刑に処された大政。弟が流された獄衍島に向かった彼は、弟を救わんとしますが、すでに彼の弟は島を支配するクーマン神父に心酔し、兄と同行することを拒絶します。何とか弟を取り返すため、クーマンとのブラックジャック勝負に挑む大政ですが、もちろん見事なまでの噛ませっぷりを発揮して惨敗、クーマンの奴隷とされてしまう始末。

 その大政を追って島に潜入した次郎長が見たのは、クーマンの搾取により苦しむ人々の姿。かつて島に漂着した異国船に乗っていたクーマンは、同乗していた仲間たちが何者かに惨殺されて以来、神の教えとギャンブル、そしてその腕力にものを言わせて島を支配し、逆らう者は殺すか奴隷としていたのでありました。
 かくて、大政と弟を、そして島民を救うため立ち上がった次郎長は、クーマンとの大勝負に出ますが、クーマンが提案してきたのは文字通り命をチップとしたポーカー。 吊り下げられた二つの大岩を、次郎長派50人とクーマン派200人がそれぞれが引っ張る、その下で繰り広げられるポーカー勝負のルールは、チップがそのまま互いの仲間を表すというもの。つまり、勝負に勝てばそれだけ自分の仲間が増えて岩を引き上げる力が強くなり、負ければ仲間が減って引き上げる力が弱くなり、どちらかの仲間の力が及ばなくなったときには、頭上に大岩が落ちてきて死亡、というむしろ男塾チックなルールです。
 初めてのゲームを、圧倒的に相手の有利な状況下で始めることとなった次郎長。しかもクーマンは、神の力と称する謎の力により恐ろしいまでの引きの強さが! 勝てるか次郎長!?

 というわけで始まるデスゲームなのですが、ゲームの内容以上に、いやこの第三巻の何にもまして魅力的…というか印象的なのは、クーマン神父のキャラクター。
 神父でありながら酒を飲む、博打をする、人を殺す。島民たちから博打で土地と財産を巻き上げて奴隷とし、逆らう者は容赦なく殺す…と、ここまではよくある悪党ですが、しかしこのキャラクターの場合、人に愛を説き、神の王国を作ろうという神父であるという属性が、キャラの持つ狂気を何倍にも増幅させているのがたまらない。

 何せ崇めているのが、人の死体に猪の生首を載せた磔刑像という、「涜神」という言葉を絵にしたらこうなる、とでも言うべき、一目見ただけでイヤ~な気分になる代物です(これを見ても何とも思わない大政の弟は相当ナニだと思います)。
 そして大勝負に臨んでは、見ている方が引くくらいのテンションで神に祈り、そしてまさに神懸かり的な引きの強さを発揮(そしてその後、見開きで大げさに神に感謝)するという、キャラを立てるにもほどがあるという素晴らしさ。
 ちなみに実写化された場合の私の脳内キャストは大月ウルフ。つまりはそういう人です。

 しかしラストまで読み通せば、そのクーマン神父というキャラを構成する要素が――上で述べた磔刑像や大袈裟すぎる祈りも――皆、単なるハッタリやネタではなく(もちろんそういう要素も山とありますが)それなりの意味を持つことがわかるのに、また仰天。
 さらに、仲間を失った漂流者というクーマン神父の来歴にもまた、巨大な秘密が隠されており、この辺りのトリッキーな展開がまた、彼と、そして物語全体をより面白いものにしているのは間違いありません。
 …まあ、肝心要のサマの正体がナニだったりしますが――決着時の両者の手札の絵面がある意味最低、ある意味最高――これだけ素晴らしいキャラ造形の前にはそれも小さいことに思えてきます。

 が――何とも残念かつ許せないことに、クーマン神父を倒して迎えたこの巻のラストに記されたのは「第一部完」の文字。つまり平たく言えば打ち切りということです。
 …一体、編集部は何を考えているのか。これほど(局所的に)大人気の作品を! 確かに原作とは全然違う作品だけど、作者もアレしちゃってるからクレームも来そうにないのに(暴言)。

 まあ、単行本については秋田書店並に容赦のないリイド社において、こうして第三巻がきちんと発売されただけ御の字なのかもしれませんが…
 しかし、同じリイド社の「コミック乱」増刊の方では、第一部完となった「寝小魔夜伽草子」が、まさかの(いや、とても嬉しいです)第二部スタートということなので、本作もその可能性がゼロではないと思いたいところ。
 「乱」本誌でも「ツインズ」でも増刊でもよいので、いつかまた、次郎長と、素晴らしい狂人ギャンブラーたちとの対決を読むことができるよう、心から祈る次第です(…もちろん頭が猪の磔刑像に)。


 しかし――前の巻で登場したっきり、この巻の冒頭で登場するまですっかり忘れておりましたが、柘榴殿で手に入れた博打御免の将軍家お墨付き。これはもしかすると、今後の展開、次郎長のサクセスストーリーに大きくわってくる存在だったのかもしれないという気が、今になってしてきました。
 うまく使えば時代もの的に実に面白いアイテムだけに、この点からも打ち切りが惜しまれるところです。

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