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2007.07.09

入門者向け時代伝奇小説五十選 7.戦国もの

 さてまだまだ続く入門者向け時代伝奇小説五十選、今日は戦国時代を舞台にした作品から五つを取り上げます。戦国時代といえば、江戸時代に並んで時代伝奇小説の主たる舞台の一つ。それだけバラエティに富んだ名作ばかりで、選ぶのに嬉しい苦労を味わいました。
31.血路 南稜七ツ家秘録
32.神州纐纈城
33.黎明に叛くもの
34.魔海風雲録
35.幻の城 慶長十九年の凶気

31.「血路 南稜七ツ家秘録」(長谷川卓 ハルキ文庫)
血路―南稜七ツ家秘録 (時代小説文庫) まずは戦国乱世を駆け抜けた山の者「南稜七ツ家」を描いた活劇から。七ツ家とは、深山に棲み、卓越したサバイバル能力を活かして人質の救出や貴人の脱出を助けることを生業とした者たちのこと。その彼らが、武田晴信に滅ぼされた芦田家の嫡男・喜久丸を救ったことから、武田の暗殺集団「かまきり」と死闘を繰り広げることとなります。
 本作で描かれる七ツ家の戦いぶりは、通常の武術とも忍術とも異なる、まさに山の者ならではの自然戦闘術で、これがまた実に新鮮。そしてそれに加え、戦いの中で男として、そして山の者として育っていく喜久丸の成長物語としての側面を持つことが、本作を味わい深いものとしています。
 長谷川卓は最近では剣豪もの・奉行所ものがメインですが、本作の系譜に連なるものとして、七ツ家として成長した喜久丸が活躍する続編「死地」、そして武田勝頼の遺金を巡るもう一つの山の者の物語と言うべき「嶽神忍風」シリーズがあります。


32.「神州纐纈城」(国枝史郎 河出文庫ほか)
神州纐纈城 (河出文庫) 何年かおきに復活してはまた消えていく不思議な作家・国枝史郎。その代表作であり、そして時代伝奇小説史上に輝く妖星と言うべき作品が本作です。
 偶然手にした深紅の布に導かれて主家を出奔した若侍、憑かれたように人を斬り続ける殺人鬼、生き面作りの美女、人の臓腑から霊薬を作る薬師、剣聖塚原卜伝、神秘的な教団を率いる聖者、そして纐纈城に潜む仮面の城主…富士山麓に集った奇怪な人々の交錯が、人の生き血でもって布を染める魔の纐纈城を中心に描かれていく様は、一種の曼陀羅とでも評すべきでしょうか。
 ここで展開される物語は血腥く恐ろしいものではありますが、しかしそれに留まらず、同時に人間の業を描いて不思議な荘厳さすら感じさせるのが、実は未完の作品でありながら今なお語り継がれ、多くの作家に影響を与えてきた魅力の淵源かと感じられます。
 なお、その作家の一人である石川賢により描かれた漫画版は、原作の要素を可能な限り取り入れつつ、作者らしい味付けをほどこし完結(!)させた、もう一つの纐纈城と言うべき作品であり必見です。


33.「黎明に叛くもの」(宇月原晴明 中公文庫)
黎明に叛くもの (中公文庫) 「信長――戴冠せるアンドロギュノス」「聚洛――太閤の錬金窟」「安徳天皇漂海記」と、伝奇――というより幻想色の強い奇想の作品を次々と発表してきた宇月原晴明が、戦国の梟雄・松永弾正久秀を主役に据えた戦国絵巻が本作。もちろんそれが凡百の作品であるはずもなく、本作での松永久秀は、波斯渡りの暗殺術を操る美貌の妖人という意表を突いた造形となっています。
 本作ではその久秀が天下を目指して暗躍する様が描かれるわけではありますが、しかしこの久秀は、単なる悪逆の野望の男ではなく、敬愛する兄弟子(!)斎藤道三を屈服せしめた織田信長、まさに戦国の世に輝く日輪とも言うべき存在に憧れを抱きつつも、しかし遂に光及ぶことのない明けの明星――すなわち、神に対するルシファー――としての哀しみを抱く者として描かれます。伝奇小説として絶後のガジェットを用いつつも、勝者になれなかった者たちの哀しみの姿を描いた様が、何とも印象的であります。
 なお、本作はノベルズ化の際に外伝短編四編が書き下ろされておりますが、こちらは現在「天王船」の題で文庫化されています。


34.「魔海風雲録」(都筑道夫 光文社文庫)
魔海風雲録 (光文社文庫) 時代は一気に下って戦国も末期、天才・都筑道夫が描くのは、真田の若君・大助を主人公とした大冒険活劇、退屈な日常を嫌って実家を飛び出した大助を待ち受けるのは秘宝の謎を秘めた魔鏡の争奪戦であります。大助を中心に、奇怪な山大名、異形の忍者・佐助に非情の密偵・才蔵、大泥棒に海賊、南蛮人…これでもかとユニークなキャラクターを詰め込んで木曽の山中から始まる物語は、あれよあれよという間に駿府に飛び出し、果ては大海原を舞台に冒険が繰り広げられることとなって全く飽きることがありません。
 都筑道夫といえば、やはり洒脱でモダンな味わいのミステリやハラーストーリーの人、という印象がありますが、本作に見られるように実は時代小説の名手でもあります。自由闊達な味わいの本作のほか、死より甦った平賀源内がゾンビを操って大暴れする「神州魔法陣」、オーソドックスな時代伝奇かに見えた世界が意外な次元に飛翔する「神変武甲伝奇」など、伝奇ファンであれば見逃せない作品を遺しており、こちらの方面の再評価が望まれるところです。


35.「幻の城 慶長十九年の凶気」(風野真知雄 祥伝社文庫)
 歴史上の区分で言えば既に江戸時代の事件ではありますが、戦国時代のエピローグと言える戦いこそ大坂の陣であると言えるでしょう。本作はその大坂の陣の陰で繰り広げられた最後の暗闘を描いた異色の作品です。
 大坂城の束ねとなる総大将不在を憂いた真田幸村により、関ヶ原の戦に敗れて流刑となった宇喜多秀家奪還の命を受け、八丈島に向かった根津甚八。しかし総大将となるべき当の秀家が狂気に陥っていたことにより、事態は二転三転、意外な方向に向かっていくこととなり、思わぬ結末を迎えることとなります。
 最近では老境に差し掛かった武士を主人公とした人情味の強い作品が多い風野真知雄ですが、「刺客江戸城に消ゆ」「魔王信長」など、伝奇ものも少なくありません。この二つの作品群に共通するのは、歴史の表舞台から忘れ去られた者たちへと向けられた作者の視線であって、それは宇喜多秀家という、関ヶ原以降の歴史から置いていかれた戦国人を中心に据えた本作においても健在であり――それが本作を戦国ものとしてここに取り上げた所以でもあります。


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