« 「モノノ怪」 第二話「座敷童子 後編」 | トップページ | 「大江戸ロケット」 拾六発目「あたしがアレよ!」 »

2007.07.24

「陰陽師 夜光杯ノ巻」 変わらぬ二人の世界

 何だか短編集はずいぶん久しぶりのような気がしますが、夢枕獏先生の「陰陽師」シリーズの最新短編集「夜光杯ノ巻」が刊行されました。夜光杯とは、名玉でつくられた夜中にでも光る杯のことですが、なるほど、暗がりの中でもきらりと光るような作品がいくつも収録された、味わい深い作品集となっています。

 収録されている作品は、「月琴姫」「花占の女」「龍神祭」「月突法師」「無呪」「蚓喰法師」「食客下郎」「魔鬼者小僧」「浄蔵恋始末」の全九話。これまでよりも収録作数は多めですが、既に円熟の域といいますか、素晴らしい安定感がある本シリーズだけに、どの作品も安心して読むことができますし、変化に死霊、神仏に鬼神が入り交じっての物語は実に賑やかであります。

 個人的に印象に残ったのは、あまりに豪快なクライマックスの展開にに初めびっくり次ににっこりの「龍神祭」(晴明が時折、博雅の方が力は上などと言っているのは全くもって正しいと思えます)、一切衆生悉有仏性という教えが何という優しい思想であることかと感じ入った「月突法師」、そしてあまりに純粋な恋の姿を描いた「浄蔵恋始末」といったところでしょうか。特に最後の作品は、他の作品とは少々晴明の立ち位置が異なるのですが、人の心の機微を知り尽くした上で、一見不思議でも何でもない事件の絵解きをしてみせる晴明の見事な名探偵ぶりが、切なくも美しい結末と相まって心に残ります。

 正直なところ、さすがにこれだけ長期に渡っているシリーズということもあり、口の利けぬ女の怪など、シリーズのこれまでの作品とちょっと被っているかな…と思わないでもない題材もありますが、しかしそれはマニアの見方というものかもしれません。
 何よりも、いつもと変わらない晴明と博雅の姿、二人の何気ない――それでいて実に味わい深い会話を聞くことができるだけでも「ああ、いいなあ…」としみじみ感じ入ってしまいます。
 いつもと変わらぬ二人がいるこの居心地の良い世界が、この先いつまでも続くように…心から願う次第です。


…にしてもやっぱり晴明と博雅の仲はどう見てもただごとではないのですが。何なのですかあの晴明のデレっぷりは。


「陰陽師 夜光杯ノ巻」(夢枕獏 文藝春秋) Amazon

関連記事
 全ては一つの命 「陰陽師 瘤取り晴明」
 「陰陽師 瀧夜叉姫」 晴明が晴明で、博雅が博雅である限り
 「陰陽師 首」 本当は恐ろしい…のに魅力的なおとぎ話
 「陰陽師 鉄輪」 絵物語で甦る代表作

|

« 「モノノ怪」 第二話「座敷童子 後編」 | トップページ | 「大江戸ロケット」 拾六発目「あたしがアレよ!」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/15861237

この記事へのトラックバック一覧です: 「陰陽師 夜光杯ノ巻」 変わらぬ二人の世界:

« 「モノノ怪」 第二話「座敷童子 後編」 | トップページ | 「大江戸ロケット」 拾六発目「あたしがアレよ!」 »