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2007.08.24

最近の「御庭番 明楽伊織」 やっぱりビフォアストーリー?

 掲載誌の方があまり元気がないこともあって、第一話を取り上げて以来しばらく様子見していたのですが、「御庭番 明楽伊織」がなかなか面白くなってきました。第一話の感想でブチブチ言っていたように、やはり「明楽と孫蔵」のビフォアストーリーであった(可能性が非常に高い)本作、後々に繋がる要素も色々と出てきて、ファンには実に嬉しい展開となっています。

 何と言っても嬉しいのは、前作では、伊織と並んでタイトル・ロールを務めた老忍者・孫蔵の登場でしょう。伊織の先代の代から明楽家に仕えてきた凄腕の老忍者、かつては荒吐の孫蔵の名で恐れられた伝説の忍びながら、伊織の頼もしい従僕として、いや相棒として歳を感じさせぬ痛快な大暴れを見せてくれた孫蔵が、ようやく姿を見せてくれたのです。
 もっとも、まだ老人というにはちょっと若い本作での孫蔵は、まだまだおっかない部分を残した強面の忍び。何せ、本作での孫蔵は、伊織の父から依頼されて、伊織を仕留めるために現れたのですから…!

 前作では――すなわち後年には――洒脱で豪毅な男ぶりを見せる伊織ですが、若き日はまだまだ悩める青年。文武に秀でた兄へのコンプレックスから、家をしばしば飛び出しては無頼の生活を送り(その一つが第一話で見せた偽名を使っての人足寄場暮らしですが…無頼にもほどがある)、実母の葬式にも顔を見せなかったほどだったのですが、苛烈をもって鳴る御庭番の家に連なる者がそれで済まされるわけはありません。そこで伊織の父は、孫蔵に伊織の心根と技を試すように命じます。…伊織の未熟で命を落とすようであれば、それもやむなし、と。
 この辺りの、命じる方も受ける方も、現代人から見るとちょっと常軌を逸した神経というやつは、しかし、時代ものではしばしば登場する感覚ではありますが、やはり森田節に乗せて描かれるとそのテンションも格別であります。

 そして繰り広げられる前作読者には夢の対決、伊織vs孫蔵ですが、やはりまだまだ現時点では伊織は未熟。それなりに戦っては見せたものの、底知れぬ孫蔵の力の前には完敗。それなりの見どころはあると命は救われたものの、伊織にとっては屈辱以外の何ものでもないわけで…
 冷静に考えると、基本的に無敵の森田主人公にあって、このような敗北シーンは珍しいのですが、一度は敗北して悔しさの中から立ち上がるのも男の見せ場。ええい、修業のし直しだ…というところでまたもや前作ファンにとってはサプライズゲスト、前作「明楽と孫蔵」第九巻の冒頭に登場した伊織の拳法の師で明からの亡命者の末裔・景鶴芝先生がここで登場いたします。この景先生、主人公の師匠という重要な位置付けのキャラクターで、ビジュアル的にも背景設定的にもなかなかキャラの立った方だったのですが、惜しくも前作ではたった一度きりの出番だったのですが、ここでよもやの登場。設定的にはここで登場して当然ではあるのですが、前作との繋がりをきっちりと意識してくれているようで嬉しいことです。

 さて、再修業した伊織の捲土重来やいかに…というところですが、この先、きっちりと孫蔵に借りを返して、前作に見られるような名コンビ結成、ということになるのだろうとは思われるものの、まだまだ先が見えない本作。何せ、今の伊織は「御庭番」でも何でもない、ただの武士の次男坊であるわけで――
 まあ、前作読者あるいは森田ファンであれば十人が十人とも予想しているように、伊織の父も兄も惨死することになるとは思いますが、さて、その際にその後に、伊織がどのように変貌を遂げることとなるのか? 見たいような見たくないような複雑な気持ちではありますが、その前に連載終了(あるいは廃刊…)などということがないように祈りつつ、色々な意味で胸躍らせて毎回毎回読んでいる次第です。

 …というか、角川でも双葉でもいいので「明楽と孫蔵」は文庫化なり再版なりするべきよねえ。


「御庭番 明楽伊織」(森田信吾 「コミックチャージ」連載中)


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