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2007.08.17

「絵巻水滸伝」第八巻 巨星遂に墜つ

 隔月で刊行されてきた「絵巻水滸伝」もいよいよ大詰め、第八巻では托塔天王晁蓋最後の戦いが描かれますが、そこに至るまでの道のりは混沌の一言。並みいる敵に打ち勝ってきたか無敵梁山泊が、思わぬ脅威に晒されることとなります。

 この巻の混沌を予告するかのように(?)まず梁山泊の前に現れるのは混世魔王樊瑞。実に久しぶりの登場である九紋竜史進の梁山泊入りと絡めて描かれる樊瑞一党との対決には、本書の特徴の一つである武侠小説的味わいが色濃く漂っており、武侠小説と水滸伝という、我が国ではコロンブスの卵的組み合わせの妙が感じられます。
 それに続くエピソードでは、鉄壁を誇る梁山泊の弱点を突くかのような、内部からの破壊工作を行う怪人たちが襲来。基本的にオリジナルエピソードではありますが、原典では悲劇の(?)好漢であった韓伯竜に思わぬ活躍の場が与えられるのが何ともユニークです(原作のネタキャラっぷりも素敵なんですけどね)。

 そしてまだまだ続く混沌の展開。事件の黒幕と目される曾頭市、女真族の一族に占拠された武装都市に戦いを挑む好漢がいる一方で、智多星呉用は梁山泊の新たなる力とするべく河北の玉麒麟、大富豪盧俊義へと接近します。
 そうこうするうちにも暗殺者の魔手に倒れた××の命は旦夕に迫り、そして梁山泊先鋒の惨敗の報に、ついに梁山泊首領たる晁蓋自らが軍を率いて曾頭市に向かうものの、そこには晁蓋を兄の仇と付け狙う史文恭の姿が――

 と、まさに怒濤の展開。一つのエピソードが次のエピソードにバトンタッチし、そのまた次も…と、エピソードの連鎖で描かれる水滸伝には珍しく、一つのエピソードが二つの流れに分岐する、あるいは二つ以上のエピソードが平行して展開するこの巻(以降)のスタイルは、梁山泊を取り巻く状況の容易ならざる様をうかがわせてくれます。

 しかし…このように盛りだくさんの第八巻、大変に面白いのは間違いないのですが、ちょっと引っかかる部分がないでもありません。複数のエピソードの同時展開は、物語の厚みと緊迫感を増す効果を確かにあげているものの、しかしその一方で一つ一つのエピソードの印象が薄くなり、また現時点でも数十人に及ぶ登場人物が錯綜しすぎて、何だかずいぶんと慌ただしい印象となっています。
 また、上に述べたとおり武侠小説テイストの導入も、オリジナル展開の中で、原典のテイストとの融合が十全に行われていると言い難い面もあり、違和感が皆無とは言えません(はっきり言ってしまえば白骨猫目立ちすぎ)。
 これが北方水滸伝並みに原典から離れていれば格別、なまじ原典の味わいをうまく出しているだけにちょっとしたところが気になってしまうのが皮肉と言えば皮肉なのですが…

 と、珍しく厳しめの感想を書きましたが、しかしそれでもなお、本作が「水滸伝」として群を抜く面白さであることは間違いのない話。ことに、混沌たる状況の中でも「らしさ」を失わない好漢たちのキャラクター描写の巧みさは健在であります(石勇・孟康・楊雄といった、原典ではあまり目立たない好漢にも見せ場がちゃんとあるのがまた素晴らしい…特に楊雄の活躍シーンにはちょっと驚かされました)

 実はこの巻で梁山泊を襲った混沌は、現在公式サイトで連載中の「絵巻水滸伝」最新話でも進行中。つまりはおそらく最終巻のラスト近くまではこのスタイルで物語が展開されていくということでしょう。果たしてそれが物語全体にとってどのような影響を与えるか、これは終わってみなければわかりませんが、残り二巻、最後の最後まで追いかけていこうと思います。

「絵巻水滸伝」第八巻(正子公也&森下翠 魁星出版) Amazon

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