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2007.08.28

「竜神伝説」 もう一つの水のほとりの物語?

 ここしばらくの講談社の横山光輝作品復刊攻勢は、なかなか掲載誌にまで当たれない私のような人間にとっては本当にありがたい限りで、おかげで幻と呼ばれていた作品を幾つも読むことができたのですが、この「竜神伝説」もその一つ。長らくタイトルのみしかわからなかった作品ですが、これが何と応仁の乱の頃の琵琶湖を舞台にした活劇もので、嬉しい驚きでした。

 主人公・一郎太は天涯孤独の青年。ある戦に参加したものの敗走し、落ち武者狩りにあって絶体絶命の彼は、幻術を操る幻也斉なる謎の老人に命を救われます。この幻也斉、ある目的のために各地で見どころのある若者を集めて竜神組なる武装集団を結成し、琵琶湖を荒らす湖賊たちを資金集めのために襲撃していたのでありました。
 かくて竜神組の一人として活躍するようになった一郎太。しかし、幻也斉が極秘裏に開発してきた秘密兵器・亀甲船の存在を知った近江の守護・六角高頼は、亀甲船を奪うために総攻撃を仕掛けてきて――

 というのが本作のあらすじですが、さすがに時代漫画の名匠だけあって、そのクオリティはまず水準以上。いかにも横山作品の怪老人というたたずまいの幻也斉を筆頭に、キャラクターとアクションの描写は共に手慣れたもので楽しく読むことができます。
 しかし本作の最大の魅力は、幻也斉の、竜神組のその目的でしょう。日本史上空前の混乱を招いた応仁の乱に対し、その混乱を収め、世を平和にする、という大きな理想を掲げて戦う彼らは、専守防衛や諜報といった任務のため、あるいは復讐や自らの生活のために戦うキャラクターが多かった横山エンターテイメントの中ではなかなかに珍しい存在であり、その理想の壮大さ、清々しさは注目すべきものがあるかと思います。

 が――残念ながら本作は掲載誌の廃刊により、わずか半年あまり、十回強の連載で第一部完という形で終了しており、その魅力が十全に活かされているとは到底言えないのが正直なところ。一郎太や幻也斉以外のキャラクターの個性も生かされているとは言えず、典型的な打ち切り作品になってしまったのは、竜神組の存在の独自性を考えれば、全く残念でなりません。
 本作がもしこの先も描かれていれば、和製「水滸伝」となったのではなかったのか…と考えてしまうのは、舞台が琵琶湖沿岸という水の辺の物語であり、そしてまた言うまでもなく横山先生が「水滸伝」の名コミカライズを行っていることからの連想なのですが、名匠の手により、志の下に集まった新たなるならず者の物語が生まれた可能性がここにあったことは無視できないのではないかな、と思った次第です。


「竜神伝説」(横山光輝 講談社漫画文庫) Amazon

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