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2007.08.25

「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第二巻 伝奇小説の知的快感

 大作伝奇「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」も第二巻にして早くも佳境。一連の奇怪な事件の源に、かの楊貴妃の影があることを知った空海と橘逸勢が、その謎を追い求めるうちに、唐の国の大秘事に直面することとなります。

 人語を話す猫の妖物との対決から、一連の怪事に、五十年ほども昔にこの世を去った楊貴妃の存在を感じ取った空海は、大胆不敵にも、楊貴妃の墓所を暴かんとします。
 成り行きとはいえそれに同行するのは、空海の親友たる逸勢と、二人と偶然知り合った後の大詩人――そして後にその楊貴妃と玄宗皇帝を歌った「長恨歌」を著すことなる――白居易(白楽天)というもの凄い顔ぶれ。
 空海たちと白居易が出会っていたというだけでも胸躍るのに、この三人がよりにもよって楊貴妃の墓暴きを行おうとは!

 しかしそれはまだまだ序の口。白居易からの縁で、唐代きっての文学者であり、当時の革新派の官僚であった柳宗元と知己となった空海は、彼から阿倍仲麻呂――唐に留学して玄宗皇帝に重用され、遂に祖国に還ることなく異国の土となったあの阿倍仲麻呂が、天才詩人・李白に宛てた日本語の書状の存在を知らされることとなります。

 その手紙の内容こそが、実に本作の核心に向かう鍵であり扉であるわけですが、いやもう、その内容たるや、奇想もここに極まれりと言うべきもの。
 何せ、中盤でまず明かされた、この書状の題名を見たときの衝撃と言ったら――冗談抜きで、一瞬頭の中が真っ白になりました。

 時代伝奇小説の魅力は色々とあるかと思いますが、その一つは、史実の裏側に隠された「真実」が明かされる際に、我々が知る歴史とのギャップから生まれるインパクトに由来する、一種の知的快感ではないかと思います。
 その点からすれば、わずか二行程度の文章から、とてつもないインパクトと知的快感を生み出してくれた本作は、素晴らしく魅力的な時代伝奇小説と申せましょう。

 しかし、この書状の内容が――「楊貴妃の死」を巡る大秘事が明かされた時点で、本作はまだ全体の半分、折り返し地点に達したばかり。
 果たしてこの先何が空海と逸勢を待っているのか、そしてどれだけ我々を驚かせてくれるのか――想像しただけでもうたまりません。一読巻を措く適わずとは、まさに本作のような書物に言うべき乎。


「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第二巻(夢枕獏 TOKUMA NOVELS) Amazon

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