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2007.08.26

「モノノ怪」 第七話「のっぺらぼう 後編」

 「モノノ怪」三つ目のエピソード「のっぺらぼう」、前後編の後編である今回は、いよいよ薬売りがモノノケの形と真と理を暴く解決篇。仮面の男…の面はあっさりと冒頭で封印され、あとは薬売りの仕切る芝居「お蝶の一生」によりお蝶の過去とその深層の心理が描き出されることとなりますが、さて、のっぺらぼうとは誰かと言えば…

 毎回色々と凝ったスタイルで物語を見せてくれるこの「モノノ怪」ですが、今回は(これまでのエピソードに比べれば)構成的にはかなりシンプル。「お蝶の一生」で描かれるお蝶が凶行に至るまでの人生を通じて、お蝶の心の中に潜んでいたもの、お蝶が心の中で育んで――そして殺してきたものが描かれますが、それがそのままモノノケ・のっぺらぼうの真と理に繋がることとなります。
 母の過剰な期待に応えるために自分の心を無くし、自分を道具にして望まぬ家に嫁いだ彼女の心から生まれたもう一人の彼女。自分を殺し、自分という存在を――すなわち自分の顔を失ったお蝶に取り憑いたモノノケ、それこそがのっぺらぼう、ということなのでしょう。
 
 モノノケの形と真と理さえわかってしまえば、その力を発揮した退魔の剣の敵ではもちろんありませんが、しかし何よりもモノノケを祓う力となったのは、お蝶が自分の過去と心の内を直視することができたからなのでしょう。正直、見ていたときは、薬売りに過去を見せつけられて悶え苦しみ嗚咽する彼女の姿は正視に耐えないくらい辛いものがあったのですが、その果ての「ばっかみたい」という言葉、そしてラストを見れば、その辛さがあったからの救いだとわかります(にしてもお蝶を演じた桑島法子氏の演技の見事さたるや…この「モノノ怪」という作品、見事なビジュアル面にまず目が行きますが、声優陣の素晴らしい演技あってこそのこの作品とわかります)。
 それにしても今回の薬売り、終わってみればその行動はカウンセラーのようでした。薬を売るだけでなく、カウンセリングもしてくれるとは、何とも芸達者です。


 さて――お話の方はこのような内容かと思いますが、細かいところに目を向けると突然難しくなる今回。私も観ている最中に色々と悩みましたし、ネットで他の方の感想を拝見しても、色々な意見が出ていましたが、一番大きな疑問点は、「仮面の男の正体は?」に尽きるかと思います。
 この点については、以下の三つの考え方があるかと思います。
1.純粋なあやかしである
2.お蝶の心が生んだ分身である
3.薬売りの自作自演である

 1.については、解説の必要はないでしょう。前編で描かれていたように、彼は本当にお蝶に恋していたアヤカシの類で、モノノケとは別の存在ということです。また、2.は、自分自身を殺したお蝶の想念がもう一人の自分を生み出したように、誰かに愛されたいと願うお蝶の心が、自分を必要としてくれる、一途に慕ってくれる相手を生み出したということで、仮面の男もまた、モノノケの分身とも言えるかと思います。
 さらに一番ドラスティックな3.は、薬売りと、変身後の薬売り(通称ハイパー薬売り)が示し合わせてお蝶を巡って芝居を演じ、お蝶の本音を引き出したということになります(今回も含めた本作での描写を見るに、薬売りとハイパーは別個に存在しているようですので、それも不可能ではないかと)。

 うち、3.についてまず考えてみると、根拠は二点あります。一つは、仮面の男のビジュアルが、ハイパー薬売りに酷似していたこと。もう一つは、結末で勝手口に座った薬売りが、仮面の男の煙管を吹かしていたこと。どちらもなるほど、と思いますが(特に後者)、どちらも別の理由は色々とつけようがあるようにも思えます。特に、「モノノ怪がその面の男を操り あなたを欺き あの家に縛り付けた」という薬売りの台詞から考えると、ちょっと苦しいように思えますし、既に婚礼の席で出現していたことを考えると(記憶を改竄していた可能性もありますが)、やはり薬売りだった、というのは難しいように思えます。

 また2.は、モノノケ誕生の過程を考えると、これはこれで非常に説得力がありますし、ドラマ的にも何とも哀しくてよい(という言い方は本当に申し訳ないですが)かと思います。この場合、仮面の男との婚礼の結果は、お蝶が幻想の幸せの中に没入して、現実から完全に心を閉ざしてしまうこととなるのでしょう。
 ただし、この場合も上に挙げた台詞がひっかかってきます。仮面の男が本当にお蝶の生み出したもの、モノノケの分身であれば、また違った表現になるのではないでしょうか。

 そして1.ですが、やはりこれが本編の描写との矛盾も生じず、一番通りが良いように思えます。彼は不幸な境遇のお蝶に惹かれてきたアヤカシであり、彼女を陰ながら見守ってきた存在。薬売りの言葉のように、モノノケに操られて、お蝶を操る道具として利用されていたことになりますが、これはこれで幸せだったのでしょう。 と、この考えを採る場合、実は自分でもどう解釈したものかと悩んでいたのが、クライマックスでの、お蝶とハイパー、薬売りの三人の以下の会話。
お蝶「ひとつ聞いてもいいですか のっぺらぼうは何故…何故私を助けてくれたんでしょう?」
ハイパー「救われたなどと…思っているのか?」
薬売り「強いて言うなら 恋でも したんじゃないですかね 貴女に」
お蝶「え…」
薬売り「叶うわけなどないのに 哀しき モノノケだ」
お蝶「哀しき モノノケ… ありがとう…ありがとう…もう大丈夫」

 この台詞だけだと仮面の男=モノノケと聞こえて、2.でも良いように思えてくるのですが、ここはのっぺらぼう≠モノノケと解すればよいのかと思います。薬売りが「哀しき」と評しているのは、仮面の男ではなく、モノノケ(=薬売りと話しているお蝶)と考えると、その後のお蝶の「ありがとう」という言葉に綺麗に繋がってくるように思えます。

 もちろん、以上述べてきたのはあくまでも一つの解釈。観た人の人数だけの解釈が存在するのが本作だと思いますし、それが魅力なのですが、私はこう解した、ということで。


 しかし今回のエピソード、時代を変えれば「夢幻紳士」に出てきても違和感ないかも…


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