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2007.08.23

「天保異聞 妖奇士 奇士神曲」 獄一「嘆きの河」

 早すぎた放送終了から四ヶ月…DVD収録のオリジナルストーリーという形で、「天保異聞 妖奇士」が帰ってきました。全五話の新作エピソード「奇士神曲」の第一話である獄一「嘆きの河」は、TV最終回から半年後の江戸を舞台に、奇士たちの新たなる戦いが幕を開けることになります、が…
(以下、ネタバレ注意でお願いいたします)

 時は天保十五年。水野忠邦は罷免され天保の改革は失敗したものの、清吉のロケットは打ち上がっても庶民の暮らしは変わらないままのある日、江戸湾で釣りに出た旗本たちが次々に姿を消すという事件が発生します。跡部良弼の命を受け、(蛮社改所復活と引き替えに)再び集結した奇士たちは、事件の中心と思しき佃島に向かいますが、そこで彼らを待ちかまえていたのは、白魚穫りの漁師たち――いや、幕府設立以来、江戸湾を守ってきた隠密・佃衆。奇士たちを不逞の輩として捕らえようとする佃衆に、自分たちが罠にはめられたと気付く往壓たちですが、時既に遅く、やむなく彼らをその手に掛けるのでした。
 と、そこに出現する巨大な人魚のような妖夷。実はただ一人生き残った佃衆の青年に操られていた妖夷を迎え撃つ奇士たちは、これを粉砕するのですが――彼らに差し向けられたのは、蛮社改所の痕跡をこの世から消そうとする阿部・跡部の配下たち。江戸を逃れることを余儀なくされた奇士たちの運命やいかに…

 と、妖夷の跳梁に始まり、奇士たちのその後の描写に時代に忘れ去られた佃衆の悲劇、妖夷との激しい戦いと、そして奇士たちを襲う幕閣の罠と、短い時間の中に、これでもかといわんばかりに物語を詰め込んでみせたこの第一話。しかもレギュラーキャラはほとんど全員(あ、本庄と花井がいなかったか)登場させているのですから驚きます。
 さすがに劇中時間は半年しか経っていないためか、それぞれのキャラはさほどイメージ等変わっていません――大変に貧乏臭いビジュアルになった小笠原様は除く――し、懐かしいという言葉が当てはまるほど、実時間も経っているわけではないのですが、やはりあの個性的な面々に会えるのは嬉しいものです。
 あと男の尻! 相変わらず男の尻は気がつくと画面に映っていますが、これは別に嬉しくありません。いや、玉兵親分の顔と同じくらい何だか懐かしかったですが。

 閑話休題、時代ものとして見た場合では、佃島を――すなわち江戸の突端を、いや江戸の海を守る命を代々受け継ぐ佃衆なる集団の存在が面白いところでしょう。将軍直々に命じられての任に誇りを持ちながらも、いつしかその役目は――任じた側から――忘れ去られ、周囲からは単なる白魚漁師としか見られぬジレンマ。そしてその想いが、妖夷を動かし、そして結果的に自分たちを滅ぼすこととなるという皮肉は、いかにもこの作品らしい苦い味わいかと思います。
 ちなみに今回登場する妖夷は、デザイン的にはボディスーツをまとった人魚、とでも表すべきもので、それだけでもユニークですが、その正体が実は…というのも意表をついていて面白い。なるほど、今でも普通に見られる×××も、その原材料と製法を見れば実におぞましいものであります。


 さて、ここまで結構な点ばかりを挙げてきましたが、あまり芳しくない印象の部分もあるのもまた事実。
 上記のようにこの一話に数多くの要素をちりばめた結果――特に全体の大きなストーリーに押されて――今回の物語の中心たるべき佃衆の影が相当に薄くなってしまっており、それが単独のエピソードとして見た場合のこの物語の印象を少々ぼやけたものとしてしまっているのは事実かと思います。あまりにもあっさりと佃衆が斃れてしまった部分もそうですが、かつての役目・誇りと今の姿との間で揺れ動く佃衆の姿がもう少し描けていれば…と些か残念に感じました。
 また、何よりも、絵的なクオリティがTV版に比べるとどうにも…別に私は絵だけに惹かれて本作を愛するものではありませんが、しかしやはりTV版のクオリティに慣れた目からすると、些か違和感を感じたのが正直なところ。OPとEDが歌なしというのも、これはやむを得ないこととはいえ、寂しいことです。色々な意味で寂しいストーリーであるだけに、絵とかこういうところまで寂しいと何だかもう…
 もちろん、ここで挙げた点はいずれも諸般の制約を考えれば仕方はない部分もあるのかと思いますし、贅沢といえば贅沢なのかもしれませんが…ぶっちゃけ、こうして新作が見れるだけでも本当にありがたいことではありますし(…と、スタッフの方のブログを見ると、最終話はもの凄いクオリティになるようですので、素直に期待するとします)。


 何はともあれ、ここに始まった奇士たちの神聖喜劇。幕府という後ろ盾を失った――いや、幕府という巨大な存在を向こうに回した奇士たちが、これから如何なる道を歩むことになるのか。収録された獄二の予告の時点で、既に心騒がされるものがありますが、さて。
 そしてこの獄一のタイトルを良く見れば、この「奇士神曲」は、いきなり地獄の最深部から始まったことがわかります。地獄の深奥、魔王ルシフェルが眠るコキュートスを流れる河の名を冠して物語が始まるということは、さて、一体何を意味するのか。獄二のタイトル「ディーテの市」は、地獄で言えば中間地点と言うべき場所ではありますが、それではこれから天界へ上っていくということなのでしょうか? 神が去ったこの世界で、往壓たちは誰と、何と出会うことになるのでしょうか――残り四話、心して見る所存です。


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受信: 2007.09.02 15:16

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