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2007.08.31

「文藝年鑑」の時代小説概観が面白かったんだけど悔しかった件

 毎年日本文藝家協会が編纂している「文藝年鑑」というものがあります。年鑑という通り、その一年間の文壇・文学シーンをはじめとする文化各界の状況をまとめたもので、その一年間に文芸誌・小説誌に掲載された作品や文学賞受賞作のリストも付されており、調べものなどに重宝な一冊なのですが、そこには純文学・推理・SFなどジャンル別のその年の概観が掲載されています。
 その中に「時代小説」もあるのですが、細谷正充氏による2007年版のこれがまた実に面白かったのです。

 三段組で構成されているとはいえ、時代小説に割り当てられたのはわずか三ページ弱。その中で昨年一年間の時代小説シーンの動きを総ざらえするのだから相当駆け足ではあるのですが、しかしその中でところどころ、普通こういうところでこういう話には触れないだろう、というネタが織り交ぜてあるのですね。

 例えば、ここしばらくの一大ムーブメントである文庫書き下ろし時代小説の盛況ぶりと、それと同時に存在する問題点(これはこれで非常に頷けるものなのですが)に触れた際に言及されるのが、私も大好きな加納一朗先生の怪作「あやかし同心事件帖」(ポジティブな取り上げられ方ですので念のため)。

 また、中国歴史物について言及した際に、その他の作品全てを合わせたのとほぼ同じ分量を割いて取り上げられるのが、これまた私も大好きで、これまでもこのブログでブチブチ紹介してきた「絵巻水滸伝」というのがまた嬉しい。そのクオリティと反比例して公の場で言及されることが非常に少ない本作ですが、このように正当な評価が――それも時代小説のかつての本道であった挿絵入り単行本を引いてくるのが心憎い――下されるのは、本作のファンとして涙が出るほどありがたい話です。
 何だかうちのサイトに関係のある偏った部分ばかり取り上げてしまいましたが、それ以外の(ってぇ表現も失礼極まりないですが)時代小説一般について触れた部分も、素人目に見ても的確極まりないもので、とりあえずこのページ片手に本屋行けば読者としては大丈夫じゃね? と言ったところでしょうか。

 …と、ずいぶん持ち上げてしまいましたが、個人的には、伝奇ものをはじめとするニッチな世界にもディープに踏み込みつつ時代小説界全般にもきちんと目を向けている方がいるというのは非常に有り難いことではあるのですが、しかし私などそのニッチな世界を扱うのですら毎日ヒイヒイ言っていることを思うと、その、正直誠に悔しい話ではあります。
 ってあんた業界の第一人者を相手に何を無礼なことを! と怒られないうちに逃げる。


「文藝年鑑 2007」(日本文藝家協会 新潮社) Amazon

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