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2007.08.27

「極東綺譚」第二巻 この世のものならぬ海のほとりで

 明治の世を舞台にした異形の海洋伝奇とも言うべき「極東綺譚」、早くも第二巻のお目見え。人の身に咲く人媒花を宿した少女・暮緒を守る民俗学者・九鬼銃造の冒険は早くも佳境に入り、銃造が挑む「敵」の姿の一端が描かれることとなります。

 わずかな手がかりと共に暮緒の故郷に向かった銃造と暮尾を待っていたのは、奇怪な怪物に変化した人々と、山中に現れた太古の海中にも似た異形の世界――それこそは銃造の恩師が存在を主張した世界、陸と海の間に太古より存在したこの世のものならぬ海=冥海。
 暮緒の胸に咲いた人媒花もまたそこから生まれたものであり、そして冥界を現世に広め取って代わらせようとする黒幕と、銃造は対峙することになります。

 ここで登場する冥海は、第一巻ラストに登場した悪夢のような世界。第一巻の感想にも書いたように、画力については折り紙付きの衣谷遊氏によるこの異界描写のパワーは圧倒的としか言い様がなく、こういう表現はいかがかなものかとは思いますが、虫と海産物が苦手な人間はひきつけを起こすのではないかとすら思わされます。
 それにしてもこの冥海というのは、非常に大雑把な表現ではありますが、「妖怪ハンター」のヒルコのようにもう一つの進化を遂げた――それも、海中のものが陸上のそれと成り代わった形で――生物たちの世界と考えれば良いのでしょうか。海につながる異界というと、どうしてもクトゥルー神話のそれを想像してしまいますが、これは、それとはまた距離を置いた形でありうべからざる世界を構築しており、大いに感心いたしました。

 もっとも、こうして「敵」の正体がある程度語られたことにより、逆に物語を覆っていた言い様のない不安感を薄らいだ印象と結果となってしまったのは、これはしかたのないこととはいえ、残念といえば残念。また、敵の黒幕が狂気の美青年というのは、いささかドラマとして出来すぎで、逆に本作のようなどこか歪んだ(もちろん良い意味で!)物語においては逆に違和感を感じないでもありません。

 しかし、この世の全てを飲み尽くさんと世界そのものを敵とした絶望的な戦いの中で、人媒花の宿主となった暮緒の存在が意外な、しかし大いに納得のいく形で逆転の切り札となる展開は実にうまいと思いますし、第一巻の時点では正直薄かった、本作のドラマとしての面白さを引き出してくれたように思えます。

 そして第二巻のラストでは、銃造とはワケありな印象の超美女・美櫛が登場(ただこのキャラもビジュアル的にキャラ立ちしすぎていて現時点ではちょっと違和感アリ)、舞台を山中異界から都市のど真ん中に移し、帝国海軍にまつわる物語が展開されていく模様。ある意味新しい時代の象徴である軍という存在と、冥海がどのように関わっていくというのか、期待したいと思います。


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