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2007.08.13

「モノノ怪」 第五話「海坊主 大詰め」

 「モノノ怪」の第二エピソード「海坊主」もいよいよ大詰め。遂に形を現したモノノケに対し、源慧はその真を語り始めますが、そこに待っていたのは…というわけで、久々に薬売りも解き放ち、まさに大詰めに相応しい内容の濃い一話となっておりました。

 異界と化した船内の生け簀から現れたうつろ舟。中にはこの海を魔境と変じさせたと思しき源慧の妹・お庸が潜むかと思われましたが、いざ封印を解いて(ここでこのエピソード初登場の御札)中を改めてみればそこには…誰の姿もない。お庸はどこに消えたのか、いや何よりモノノケの真は何処に…
 と、ここで自分とお庸の過去を語り始める源慧。この竜の三角の海域近くの島で生まれ、早くに両親を亡くした二人は身を寄せ合って生きてきましたが、それがやがて互いを道ならぬ想いに駆り立てることとなります。やがて島の決めたことで僧侶となった源慧は、お庸への想いを断ち切るために修行に励みますが、その心中に常にあったのは、お庸が誰かのものとなることを恐れ、嫉む心…(と、真面目な話の時に何ですが、この回想シーンでの若き日の源慧のビジュアルがどう見てもきんどーちゃんで噴いた)

 と、アヤカシが出没する以前から海難事故が多発する竜の三角を鎮めるため、島に帰ってきた源慧は、お庸への執着心を断ち切るために島に帰ってはきたものの、いざうつろ舟を前にして、臆病風に吹かれる有り様。が、そこに現れたお庸は、兄と結ばれないのであれば、他の者と結ばれる前に御仏の元に参りたいとうつろ舟に乗ることを志願したのでありました。
 そしてお庸は哀れ海に消え、その想いが凝ってこの海を魔境に変えた、これが源慧の語るモノノケの真。

 が――薬売りはそれは真ではないと冷然と否定し、源慧が手で隠していた片目をどうしたのかと問いかけます。そして薬売りが語る真、源慧が包み隠そうとしていた真の真…それは、この海を魔境に変えたモノノケ、天空から見つめる目の姿をしたモノノケが、お庸を、己の心の中の本心を恐れる心が膨れあがった末に本体から身を分かって生まれた、源慧の分身であるという、そのことでありました。
 そして甦るかつての源慧の本心。源慧の心中にあったのは妹への愛などではなく、ただ己が立身出世して、いい暮らしをしたいという欲望であり、そのためであれば、お庸が自分の身代わりとなっても胸一つ痛まず、かえって嘲笑うような酷薄な男の姿でありました。だがしかし、お庸がうつろ舟に乗る直前になって初めて妹の本心を、彼を心から慕う心を知らされた源慧は、そこで初めて己の浅はかで醜い心に気づき、それを悔い恥じた末に、その現実を封印して、その上に、自分とお庸の甘美な、しかし背徳的な感情を上書きすることによって、お庸の真の心と、己の偽りの心に折り合いをつけることを選び――しかしその歪みからモノノケが生まれてしまった、ということなのでしょう。

 己の真に気付いた源慧は、半身を滅せられることを望み、その心に応えた薬売りが遂に抜きはなった退魔の剣により海坊主は打ち砕かれ、そして過去の後悔と恐怖から解放された源慧の姿は美しく変わって――ここに「海坊主」大団円ということと相成るのでした。


 …と、複雑なお話をできるだけ噛み砕いて再構成してみましたが、つくづく感心させられたのは、「化猫」の時に見せられた偽りの真と真の真の関係を、裏返しにしてみせたかのような物語の妙。私も前回の感想に書きましたが、「化猫」を見ていた方の大半は、源慧の語る内容が偽りであることは予想済みであったのではないかと思います。いかにも悲劇めかして描かれたお庸の物語は全くの偽りであり、真実は、お庸は身勝手な男の欲望の犠牲となって果て、その怨念がモノノケを生んだのだろうと――
 が、それが半分当たりであり、半分は大ハズレであったことは、上に書いたとおり。確かに源慧の中には浅ましく利己的な心があった一方で、お庸の心の中にあったのは、まぎれもなく源慧への心からの愛であり、そしてそれだけが源慧の内にあった二つの過去、真のそれと偽りのそれとの中で、唯一共通する真実でありました。
 「化猫」同様に偽りに違いないと頭から決めてかかっていた、男が語る女の側の心情こそが唯一の真実であった――そしてそれこそが、回り回ってモノノケを生み出す原因であった――という、この鮮やかすぎる逆転劇を目にした瞬間の驚きは、うつろ舟の上でお庸の告白を聞かされた瞬間の源慧の驚きと並ぶ…というのは大げさすぎるかもしれませんが、視聴者たるこちらの驚きと、物語中の源慧の驚きのタイミングを見事に重ね合わせて見せた小中千昭氏の手腕は、全くもって見事と言うほかありません。

 も一つ見事と言えば、今回の主役と言うべき源慧を演じた中尾隆聖氏の声の当てぶりでしょう。老若二人の源慧を演じ分けた様は言うまでもないことですが、その聖人ぶりが一転して若き日のゲス野郎の姿を現す「出世してぇんだよぉ」以降の台詞回しのハマり様には、ただ唸らされました。
 これは勝手な想像ですが、源慧役が当初予定されていた(こちらの下から二つ目を参照のこと)速水奨氏から中尾氏に変更となったのは、まさにこのシーンのためだったのではないかとすら思ってしまいます。

 そしてこのシリーズといえば忘れてはならない伏線・象徴の数々についてもやはりお見事。何故、海座頭が皆に「恐ろしいもの」を問うてきたのか、そして天に浮かんだモノノ怪が何故目の形をしていたのか。そして、ちょっとベタ過ぎる気もしますが、やはり船名の「そらりす丸」も伏線というか象徴なのでしょう。
 もっとも、源慧の右目についてはちょっと唐突すぎたなあというのが正直なところで、これは伏線とは無関係ですが、ここまで散々目立ってきた幻殃斉がいらない子となってしまったのと合わせて(まあ、彼はそういう存在といえばそれまでなんですが)大詰めのちょっと残念な点ではあります。

 とはいえ、上記の通りストーリーは実に本作らしく捻った展開で大いに楽しめた上に、ちょっと希望の持てる美しい結末でありましたし、アクションの方も、あの袖の長いな衣装が実に映える薬売りの大見得から、実に久々のトキハナツ(゚皿゚)! もあって、「モノノ怪」という作品のエピソードの一つとして恥ずかしくない、充実の作品であったと思います。


 と――忘れてはならないのは、このシリーズ恒例の、ラストエピソードED後のあと一幕。今回は、物語中怪しげな動きをしていた佐々木が「今までありがとう」と呟きながら見つめる彼の愛刀・九字兼定が砕けてその破片が目の中に入り、彼が狂笑めいた笑いとともに「絶対忘れないよ」という謎の言葉を残したところで本当の幕となります。
 これは色々と解釈が出来そうですが、ここは素直に(?)、彼が第二の海坊主となったと解することにしておきます。ラストカットでは、笑う彼の背後にもう一人の彼の姿が見えておりますし、モノノケは消えたはずなのに、彼の後ろにあった生け簀の水は赤いままでしたから――
 思えば、二ノ幕で海座頭が「恐ろしいもの」を問うた時、彼のみは恐れなどないと、己の心を偽る答えを返した挙げ句、己の内心の罪の意識に苦しむ様が描かれたわけですから、源慧同様の存在となることも十分あり得るのではないでしょうか(そう考えると、海座頭は海坊主の仲間を生み出すための試験官のような存在だったのかも…)。
 もっとも、ラストカットにはもう一人、二人の佐々木のその間に、薬売りがこちらを(=笑う佐々木の方を)向いて立っている姿も描かれていましたので、彼が野放しになることはないと思いますが…幕切れで襖が閉まったときに聞こえる「カチン」は単なる効果音か、退魔の剣の歯鳴りの音か…いずれにせよ、最後の最後まで、本作には楽しく振り回していただいたことです。


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コメント

このアニメのビジュアルに惹かれて最近見始めたのですが、いやはや、ストーリーも素晴らしいですね。仰るように偽りの真から真の真を暴き出す所が美しい。
私は以前精神分析の本を少しだけ読んだことがあるのですが、この回を見ていてその頃の事を思い出しました。
その言葉を借りれば抑圧された物(己の醜さへの気づきと同時に生まれたおようへの愛。真の真)を抑圧し隠す自己愛(耽美なる偽りの真)の結果現れる神経症(海坊主)、そして抑圧された対象充当(おように惚れたこと)を再び取り戻そうとするリビドー。
薬売りは精神科医のようですねw

投稿: uchitomu | 2010.02.06 22:51

CSでも始まったようですし、ファンが増えるのはわがことのように嬉しいですね。
以前感想にも書いたのですが、今後のエピソードで、薬売りがほとんどカウンセラーのような役割を果たす回もありますので、お楽しみに(?)

投稿: 三田主水 | 2010.02.07 17:22

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