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2007.09.19

「かく戦い、かく死す 新編武将小説集」 敗者の中の心意気

 柴田錬三郎といえば、やはり無頼のヒーローが活躍する伝奇活劇が真っ先に思い浮かびますが、その一方で、「心意気」をもって己の生を全うした人々の姿を描いた作品も少なからずものしています。
 本作はその後者の作品群のうち、戦国大名・戦国武士を主人公とした短編を集めた作品集。彼らが戦国の世をいかに戦い、いかに死したか、いずれも短編ながら読み応え十分の作品ばかりです。

 収録作は「斎藤道三」「北畠具教」「武田信豊」「明智光秀」「豊臣秀次」「直江兼続」「戦国武士」「明智光秀について」の全八編。
 題名を見てまず気付くのは、各短編で扱われているのが、天下を目指す途上で斃れた者がほとんどであること。信長や秀吉、家康といった、天下を取った(取る寸前までいった)者たちではなく、彼らの陰で非命に倒れた者たちこそが、本書の主役と言えます。

 が、それが実に柴錬らしい。天を目指すも届かず、地に這わざるを得なかった男たちが、それでも貫いた己の生きざまの中に浮かび上がるものこそ、柴錬がこよなく愛した「心意気」。
 天下にただ一人、己のみを頼りに道を往こうとする(すなわち「無頼」!)魂の輝きは、向かうところ敵なしの勝者よりも、逆境に喘ぎ苦しんだ敗者の方が、より強く激しい――表に現れた歴史、すなわち勝者の歴史だけを見ているだけでは気付かない、そんな人間の、歴史のある一面を、本書は教えてくれます。

 その本書の中で、私の心に最も強く残った作品は「豊臣秀次」です。秀次の悲運の生涯を、秀次自身と、彼を滅ぼすため暗躍した石田三成との両サイドから描いた本作は、風変わりなことに、秀次が死した後も続きます。
 そして結末、関ヶ原の戦に敗れ、三成が首の座についた時に訪れた結末において彼が見たものとは――その正体については伏せますが、かつての勝者が敗者となったとき、初めて交錯する二人の敗者の生き様に、胸が熱くなる思いがしたことでした(ちなみにこのラストだけを取り出すと、柴錬立川文庫と言っても通じてしまいそうなのが何やら可笑しいのですが)。

 生涯「地べたからもの申す」を貫いた柴錬らしい、好短編集と申せましょう。


「かく戦い、かく死す 新編武将小説集」(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon

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