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2007.09.28

「暗闇坂 五城組裏三家秘帖」 人の心の奥底に下る坂

 元禄九年師走の大晦日、仙台藩の御穀方二人が一人は切腹、一人は斬死体で発見された。藩奉行直属の監察機関・五城組の「裏三家」の一つを継ぐ望月彦四郎は、同じく裏三家の片倉辰吾と共に調査に当たる。二人が残した三つの芭蕉の俳句を手がかりに謎を追う二人だが、事件の背後には伊達家を揺るがす暗闘が繰り広げられていたのだった…

 最近の文庫書き下ろし時代小説のラッシュには、正直なところついていくだけで息も絶え絶えではあるのですが、しかし、時に思わぬ名品・佳品に出会えるのが、こうしたブームの楽しいところ。本作「暗闇坂」はそうした掘り出し物の一つであります。

 かの「伽羅先代萩」で知られるいわゆる伊達騒動が収まり、静けさを取り戻したかに見える伊達家で起きた事件の謎を描いた本作は、ミステリタッチ、サスペンスタッチの展開も楽しい時代活劇。
 実は本作は、この作者の実質デビュー作のようですが、到底そうとは思えぬほど、キャラクター・ストーリー・アクションいずれもきちんと構成された作品となっています。

 特に出色なのは、彦四郎の相棒かつ兄貴分とも言うべき辰吾のキャラクターでしょう。
 伊達家で片倉を名乗るからわかるように、決して軽い家柄の出身ではないにもかかわらず、本人はいたって人当たりのよい若旦那風の人物。種種の道楽にも長けていて、特に食については一家言持つ(しかし自分の料理の腕はイマイチなのがまた愉快)、一種のエピキュリアンであります。
 一方の彦四郎は、まだまだこの仕事では駆け出しの上、性格も堅物と、辰吾とは好対照で、この二人のやりとり――というより辰吾にペースを乱される彦四郎の姿――が、本作の魅力の一つかと思います。

 しかし、二人の挑んだ事件の背後に広がっていたのは、藩政を巡って争う者たちの潜む闇。その闇の中で、彦四郎は辰吾すら疑いの目を向けることを余儀なくさせられます。
 そんな苦闘の果てに、彦四郎がたどり着いた真実はまた苦いもの…彼が覗き込んだもの、それは平和に見えた藩政の中の闇以上に深い、人の心の中の奥底に蟠る暗闇へと下っていく坂道と言えるでしょう。

 まあ個人的には、「政治の世界は複雑怪奇」の一言でまとめてしまったかのようなラストの展開はちょっとずるいかな、という印象はあるのですが、しかしそれを差し引いても、時代小説として十分以上に楽しめる作品であったかと思います。
 大藩だけにその落とす影も大きく、また数多いであろう伊達藩において、裏三家が挑まねばならぬ事件はまだまだあるはず。彦四郎と辰吾コンビの活躍を、これで終わらせてしまうのは実に勿体ないお話であり、続編を期待する次第です。


「暗闇坂 五城組裏三家秘帖」(武田櫂太郎 二見時代小説文庫) Amazon

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