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2007.09.07

「東京事件」第一巻 闇に浮かぶもう一つの昭和史

 「特撮エース」誌に連続掲載されながらも、同誌の休刊により闇に消えた形となっていた――それはそれで内容的に相応しいのかもしれませんが――「東京事件‐TOKYO CASE -」が、単行本となって帰ってきました。
 昭和四十年代の東京を舞台に、タイムトラベルによる不可能犯罪を企てる者たちに挑む歴史科学研究所の活躍を描く本作は、SFミステリとして楽しめるのはもちろんのこと、いかにも大塚英志原作らしい、昭和史・戦後史に対するある眼差しが感じられるのが面白いところです。

 この歴史科学研究所のメンバーは、過去の念写、未来予知、時間停止と、いずれも時間に関する特殊能力を持つ者ばかり。そして彼らを束ねるリーダー・浦島正木は、意識のみが未来と過去を往復する(≒未来と過去の記憶を持つ)時間失調症という、これまた特異な存在であります。
 こんな規格外れの連中の手にかかれば、事件など即刻解決、と言いたいところですが、彼らが相対するのは、これも規格外れの怪事件。既に死亡した爆弾魔が引き起こす爆弾テロ、二つの「もく星」号墜落事故、そして過去からやってきた男が引き起こした三億円強奪事件…いずれも時間を超えたこれらの怪事件は、同時に昭和の裏面史が生み出した落とし子とでも言うべき存在であり――そしてそこに浮かび上がるのは、あり得たかもしれない可能性の世界、もう一つの昭和の姿です。

 この、決して変えられぬ時間の進行、すなわち歴史を変えてみせる、変えようとすることにより――あたかも歴史改変により生じた歪みの如く――「現実(史実)」の背後に存在した「可能性の世界」を浮かび上がらせ、それによって逆説的に「現実」の姿を描き出すという手法は、(特に戦前を舞台とした一連の)大塚氏の偽史ものとほぼ共通のものであり、そしてこれが極めて伝奇的手法であることは言うまでもありません(更に言えばこの点こそが本作をここで取り上げる所以であります)。

 もっとも、ここで描かれる物語はどれも、冷静にみるとかなり無理がある展開ではあるのですが(第三話で三億円事件・光クラブ・三島切腹の三題噺をまとめてみせた豪腕ぶりにはただ唖然)、しかしそれでもなお、本書のこのスタイルと、何よりここで描き出される昭和の姿は、非常に魅力的に感じられます。

 なお、本作の、警察の手に負えぬ超常的怪事件に挑む民間の調査チームというスタイルは、SF特撮ドラマの名作「怪奇大作戦」を思い起こさせます(事実、掲載誌では、「怪奇」と対比・関連させるような形で掲載されていました)。
 しかしながら、「怪奇大作戦」がクリエーターにとっても視聴者にとってもリアルタイムの物語を描いたのに対し、本作は平成のクリエーターが作った昭和四十年代の物語を平成の読者読むという外部構造がまず存在します。この本作独特の構造が、タイムトラベルという背骨のアイディアとうまく融合して、全く似て非なる味わいを残していると、感じられます(「怪奇」が未来への畏れだったのに対し、こちらは過去への哀惜…というのはいささか感傷的に過ぎるかもしれませんが)。


 さて、冒頭に述べたとおり、掲載誌の休刊により途絶していた本作ですが、ようやく「少年エース」誌に場を移して、続く物語が描かれるとのこと。本作最大の謎であり、正木の時間失調症の原因でもある「東京事件」――ある意味全ての始まりでもある東京への原爆投下阻止が、今後どのように描かれるのか、大いに期待する次第です。


 ちなみに単行本ラストでは思わぬ人物が顔を見せ、「木島日記」とのリンクを示唆してくれるのには大受け(大塚氏お得意のマニア向けの撒き餌ではありますが、ここは素直に反応するのが礼儀でしょう)。そうかあ、こんなロクでもないこと考えるのは、やっぱりあの組織か…


「東京事件」第一巻(菅野博之&大塚英志 角川コミックス・エース) Amazon

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