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2007.09.05

「五瓶劇場 からくり灯篭」 物語作者としての自負と覚悟

 新本格ミステリの旗手・芦辺拓は、ミステリ執筆の一方で、大坂の文化人を主人公とする時代小説をこれまで何作か著しています。本作はその中でも、江戸後期の歌舞伎作者・並木五瓶を主人公として描いた作品を集めた短編集。伝奇的な趣向の中に、歌舞伎と小説との違いはあれ、物語を描くことを生業とする者の想いを描いた、ユニークな、そして読み応えある一冊となっています。

 収録されているのは、駆け出しの五瓶が大坂の街に夜毎現れる奇怪な役者行列と出会ったことから思いも寄らぬ伝奇絵巻の幕が開く「けいせい伝奇城」、若き日の五瓶が出会い舞台化した唐人殺しの事件と、ベテラン作家となった五瓶に自らを主役とした心中ものを書くよう迫る女の謎が絡み合う「五瓶力謎緘」、大坂を出て江戸に乗り込んだ五瓶が東西の文化の違いに呻吟しつつ、かの東洲斎写楽の正体に迫る「花都写楽貌」、そして物語の世界から現実界に侵攻する奇怪な邪神と五瓶をはじめとする江戸文化人の死闘を描く「戯場国邪神封陣」の全四編。
 五瓶が作家生活の中で出会った事件を、駆け出し時代から晩年まで彼の生涯に絡めつつ展開して見せたこれら収録作は、それぞれに伝奇ものとして、ミステリとして趣向を凝らしており、いずれも芦辺拓ならでは、芦辺拓にしか書けない作品として成立しています。

 そんな中で興味深いのは、この四作品に共通した作者の姿勢でしょう。
 物語の中で何度も、そして力強く語られるのは、歌舞伎作者・並木五瓶の「物語ること」「物語の作者であるということ」に対する強い自負と覚悟。彼の人生の様々な局面で現れるこの強烈な想いは、バラエティに富んだ各作品の中にあって変わらず貫かれている、ある意味本書の背骨とも言うべき部分であり――そして五瓶の姿を通して、五瓶の口を借りて、描かれるこの想いは、同時に作者自身のそれであることは言うまでもありません。
 そしてそれは、奇想に満ちた物語を生み出し伝えること、すなわち「伝奇」に対する熱い想いの発露であるとも言えるのではないかと思います。

 そんな本書の中で、伝奇ファン、ホラーファン的に最も印象的なのは、やはりラストに収められた「戯場国邪神封陣」でしょう。我が国で、いや世界でこれまでに描かれたクトゥルー神話作品の中でも、最も個性的かつ独創的な作品の一つである本作は、上に述べた「物語ること」から生まれる宇宙的恐怖を、時代伝奇の枠の中で余すところなく描き出しており、日本でなければ描かれ得なかったクトゥルー神話の名品として、記憶されるべき作品であると断言できます。

 もちろん上記以外の三作も、いずれも劣らぬ読み応えのある作品。そしてまた、歌舞伎ファン以外には正直なところ馴染みの薄い並木五瓶の名が、これを機に少しでも多くの方の心に残るようになれば、これほど素晴らしいことはないかと思います。


「五瓶劇場 からくり灯篭」(芦辺拓 原書房) Amazon

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