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2007.09.27

「若さま同心徳川竜之助 消えた十手」 若さま、ヒーローになれるか?

 ここ最近の活躍で、文庫書き下ろし時代小説の世界で一定の地位を築きあげた感のある風野真知雄先生。
 その作品は、老境に差し掛かった、半ば人生をリタイアした人物や、浪人や冷や飯食いなど、出世街道をちょっと外れた人物といった、誠に失礼ながら世間的な基準ではあまりパッとしない人物が主役に据えられていることが非常に多いのですが、その貴重な例外と言うべき主人公の活躍を描いたのが、この「若さま同心徳川竜之助 消えた十手」であります。

 何せ主人公・徳川竜之助(どこかで聞いたような名前…)は、十一男坊とはいえ歴とした御三卿・田安徳川家の出身であり、若くて男ぶりも上々。しかも剣の腕は達人級という、見事なまでの時代劇ヒーローっぷりであります。
 しかしもちろん、そんなどこにでもいそうな(?)主人公を風野先生が用意するわけはない。こともあろうにこの竜之助、わざわざ町方の同心に身をやつして、世の悪に立ち向かってやろうというのですから奮っています。
 つまりは一種の貴種流離譚なのですが、そこにユーモアとペーソスが漂うのがやはり風野流。竜之助が出会う事件、出会う人々は、みな一風変わっていて、正統派ヒーローを目指す彼を面食らわせることもしばしばで、そこが何とも言えぬ本作の楽しさとなっています。

 そしてまた、伝奇ファンとして見逃せないのは、本書の最終話で描かれる竜之助の剣技に秘められたある秘密。
 本の帯にデカデカと書かれているのでここでも書いてしまいますが、竜之助が操る剣流こそは、その名も葵新陰流…葵の字からもわかるように、徳川ゆかりのものでありますが、その剣が、今後彼を更なる戦いに導くことになりそうです。

 それにしても――田安家の若さまが同心になるという、まるで時代劇みたいな無茶すぎる願いを叶えたのが、勘定奉行になる以前の、南町奉行時代の小栗忠順(上野介)というのがまた、実にツボを心得た配役と言いましょうか。
 なるほど、幕末の傑物・小栗上野介であればこれくらいのことはやりかねぬわい…と、思わせる配置であり、こちらの今後の動向も気になるところです。

 そして、この人物が登場することからもわかるように、舞台となるのは幕末。
 この激動の時代に、果たして竜之助は己の正義を貫くことができるか。そして曲がりなりにも徳川ご一門の若さまにとって、幕末とはいかなる時代となるのか。さらにまた、葵新陰流を遣う者に待つ運命とは…
 風野作品に、また一つ、先が楽しみなシリーズが生まれたようです。


「若さま同心徳川竜之助 消えた十手」(風野真知雄 双葉文庫) Amazon

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