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2007.10.05

「狐ヶ原の異邦人」 異邦人の見た人間の真実

 このブログではできるだけ様々なジャンルの作品を紹介したいと考えている私ですが、さすがに少女漫画にはなかなか目が届かないというのが正直なところ。しかしそれだけに、思わぬところで隠れた名品・佳品と出会うこともあって、それはそれで嬉しいことです。
 本作「狐ヶ原の異邦人」もその佳品の一つ――人と人ならざる者が出会い愛し合う様を、優しく、瑞々しく描いた連作短編集です。

 狂言回しとなるのは、特派員として明治の日本を訪れた新聞記者ジャック・リンドバーグ。彼が、行く先々で出会った人々から聞かされた人と人ならざる者――異邦人の物語を書き留めるという趣向で、本書に収録された短編は描かれています。

 人間の医師に恋してしまった狐の娘の心に芽生えた切ない愛憎を描く「狐ヶ原の異邦人」、朱雀門の鬼との博打のカタに鬼の造った絶世の美女を手に入れた男の物語「朱雀門の異邦人」、そして人魚の肉を食べて永遠の若さを手に入れた娘の数奇な半生を語る「人魚岬の異邦人」…
 本書に収録された三つの物語は、題材的にはさほど目新しいものではありませんが(いや、第二話で「長谷雄草紙」を基にしているのはなかなか珍しいかな)、いずれもほどよくアレンジが利いて、人にも異邦人にも、どちらにもしっかりと感情移入できる物語として描かれています。

 それはこれらの作品が、題材自体は古典的であったとしても、その中にいつの世にも通じる、人間の、人間として生きることの弱さ・醜さ・哀しさというものと、それと背中合わせの強さ・美しさ・喜びといったものを巧みに織り込んで、登場人物を血の通った――そう、鬼に造られた美女に暖かい血が通ったように――存在としているからなのでしょう。

 そしてまた注目すべきは、その物語を綴るのが、自身も異邦人であるジャック青年であることでしょう。
 もちろん彼は正真正銘の人間でありますが、この日本という国においてはまさしく異邦人。その彼の目を通しているからこそ、異邦人を人間と同等のメンタリティを持つ存在として、人間と愛を交わすに足る存在として描くことが、一定の説得力を持つのではないかと感じた次第。

 ちなみに本書に併録された短編「新撰組青春録」は、原田左之助の物語を聞くために、老いた永倉新八のもとを一人の青年が訪れるという物語。この物語においては、青年にとっては新八が、新八にとっては青年が異邦人であり――そしてその二人の視点が入り交じるところに、人間・原田左之助の姿が浮かび上がることになります。

 異邦人の眼差しの中にこそ浮かび上がる人間の真実もある――そんなことを教えてくれる本書。
 これが作者の初単行本とのことですが、この先の作品も期待できそうな、そんな嬉しい出会いでありました。


「狐ヶ原の異邦人」(檜垣レイコ 秋田書店プリンセスコミックス) Amazon

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