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2007.10.11

「雪太郎乳房」 ライトでもやっぱり角田作品

 娘ばかりを狙う全身真っ赤な幽霊の出没に震撼する江戸の町。御用聞き・仙蔵は、愛娘のお喜美を囮として幽霊の正体を探るも、共に行方知れずとなってしまう。仙蔵と共に事件を追っていた浪人・佐川重四郎は、事件に大身旗本・笠松家が関わっていることを知り、その入り婿に化けて笠松家に潜入するが、そこでは思わぬ陰謀が進められていたのだった。

 三田の田は角田の田、でもあるのに、うちのサイトには明らかに角田分が足りない! ということで、角田喜久雄先生の作品を読み返してみることにしました。その第一弾が本作「雪太郎乳房」。ちょっとエロチックなタイトルですが、内容はいかにも角田作品らしい、怪奇色とミステリ色の強い時代活劇となっています。

 物語の中心で活躍するのが颯爽たる青年浪人とお侠なヒロインというのは、これは角田伝奇…というより時代伝奇全般の一つの典型ではありますが、この二人が巻き込まれる事件は、余所ではお目にかかれないようなものです。

 かつて江戸に出没し、若い娘ばかりをさらっては責め苛み、その乳首から生き血を啜ったと言われる赤屋敷の幽鬼――その再来かのように、頭の上から足の先まで真っ赤な女が出没し、次々と若い娘を拐かすというのだから穏やかでない。
 しかも、さらわれた娘たちは幾ばくかして発見されるものの、その時には既に気が触れ、その乳首は真っ赤に腫れ上がっているというのだから、これは恐怖とエロが揃った見事に(?)奇っ怪な事件としか言いようがありません。

 が、それが単なる鬼面人を驚かす体のネタで終わらないのが、角田先生の巧みなところ。何故このような奇怪な事件が引き起こされねばならなかったか、真相を知ればなるほど、と思わされます。
 また、事件を追う重四郎が、笠松家に入り婿する大名家の次男坊と瓜二つというのも、単なるご都合主義ではない仕掛けがあり、それに美女二人の恋の鞘当てまで絡んできて、まずもってエンターテイメントとして面白い作品となっています。

 正直なところ、本作は質・量ともに角田作品の中ではかなりライトな部類に入るのですが、それでもきっちりと楽しませてくれるのはさすがと言うしかありません。
 角田作品は、特に代表作・名作と呼ばれるものはかなりの大部で、作品に対峙するのにかなりのエネルギーを必要とすることが多いのですが、こういうサラッと読める、しかしきっちり角田節の聞いた作品も悪くないな、と感じた次第です。


「雪太郎乳房」(角田喜久雄 春陽文庫) Amazon

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