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2007.10.17

「討たせ屋喜兵衛 秘剣陽炎」 流れる時の重みの前に

 全五巻の「討たせ屋喜兵衛」シリーズもこの「秘剣陽炎」で丁度折り返し地点。今回は、実に五十年以上も仇を追い続けた老女に応えて喜兵衛が仇討ち差配に乗り出します。
 浅野側の密偵を斬ったのをきっかけに、ある老婦人・ひなと知り合った清水一学。一学と同じ微塵流の遣い手で、五十七年前に父を殺害した田鎖甚三を探しているという彼女を、一学は討たせ屋の客として喜兵衛に紹介します。
 一方、江戸では若い女性の拐かし事件が頻発。喜兵衛を仇と狙う久宝伊織・彦一郎の姉弟は、ふとしたことからこの事件に絡むこととなります。

 時代劇の仇討ちといえば派手で華やかなイメージがありますが、それはあくまでもフィクションの世界でのお話であり、本作自体、そうしたイメージの背後にある、仇討ちのリアルを基盤に置いた作品であります。
 その仇討ちのリアルの中でも最も哀れを誘うものの一つが、目指す仇と巡り会えぬまま、時が過ぎ、一生涯を棒に振ることではないかと思いますが、本作では重い時の流れに挫折することなく仇を追い求めた者と、そしてその境遇に膝を屈した者の両方が登場し(しかもその両者が○○というのがまたうまい)、ドラマを盛り上げてくれます。

 その五十七年前の仇討ちと、現在の女性拐かしという、一見関わりのない事件が実は裏で密接に関わりあっているというのは、まあバレバレではあるのですが、それはお約束と言うべきでしょう。何よりも、その背後に潜む今回の敵・田鎖甚三の化け物っぷりが凄まじく、その大暴れを見ているだけでも十分以上に楽しい作品でありました。

 一方、一つの大きな長編物語でもある本シリーズですが、今回は、家老と自分たちの父を斬ったものと信じ込んで喜兵衛を追ってきた伊織・彦一郎姉弟が、遂に自分たちの仇討ちの背後に潜む闇に気付くという大きな展開があるのがまた楽しいところ。
 二人が事件の真相にいつ気付くのか、そして何より、伊織が想いを寄せる鬼面の剣士が、実は彼女にとって色々な意味で憎き仇である喜兵衛ということにいつ気付くのか…定番と言えば定番なのですが、この辺りはむしろ美しきお約束、いや王道と言うべき展開でありましょう。

 そしてラストでは、このシリーズの背後に見え隠れしてきた浅野遺臣の主魁たる人物が喜兵衛の前に登場。次巻ではいよいよ江戸史上最大の仇討ちに討たせ屋が絡むことになりそうですが、さて、喜兵衛はこの仇討ちにいかなる判断を下すのか、楽しみです。


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