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2007.10.09

「絵巻水滸伝」第九巻 武神、出陣す

 Web掲載を含めれば実に長きに渡って展開されてきた「絵巻水滸伝」も、今月末発売の単行本第十巻でもって、ひとまずの区切りとなります。
 と、その最終巻発売前に第九巻の紹介を。「大戦梁山泊」のサブタイトルに相応しく、次から次へと巨大な戦いに梁山泊は巻き込まれることとなります。

 曾頭市との戦いの中、命を落とした晁蓋。しかし彼に代わって梁山泊を背負うべき宋江も、暗殺者の毒に倒れて明日をも知れぬ状態となり、梁山泊は頭を失った状態となってしまいます。
 それに加えて曾頭市との混戦の中に消え、いまだ帰らぬ好漢も多い中、梁山泊を襲う様々な敵、そしてトラブル――

 前の巻での顔見せに続き、いよいよ梁山泊に正面から挑む混世魔王樊瑞の奇怪な妖術。一方、北京大名府では、梁山泊との関わりを疑われて牢に繋がれた玉麒麟盧俊義の命が風前の灯火に。そして…梁山泊を平らげるべく現れた最強の敵――武神、関菩薩こと大刀関勝。
 万全の状態でも苦戦必至の相手に対し、満身創痍の梁山泊が如何に挑むかが、この巻の見所と言えましょう。

 そして、これは毎回書いていますが、ストーリー構成の妙のみならず、キャラクター描写の見事さにおいても端倪すべからざるものがある本作。そしてこの巻において、このキャラクター面において最も注目すべきは、上に挙げた大刀関勝でしょう。
 原典読者の方であればよくご存じかとは思いますが、この関勝、梁山泊での席次の高さと裏腹に、原典でのキャラ立ちという点でははなはだ不十分な人物。あの三国志の英雄・関羽の子孫で、先祖と同じく青竜偃月刀を操るというのはよいのですが、まあ目立ちのはそのくらい。
 豪傑綺羅星の如く集う梁山泊の中では、正直なところあまり面白味のない人物なのですが、さすがはこれまでも幾多のキャラクターに新たな命を吹き込んできた「絵巻水滸伝」、これまでに登場したどの武人キャラとも異なる、まさに一種神懸かり的なスケールを持つ人物として描かれており――ネタバレになるため詳しくは書きませんが、この第九巻ラストでの「活躍」ぶりには驚かされました――なるほどこういう線から描く手があったかと唸らされた次第です。梁山泊最後の敵に相応しい貫目と言うべきでしょうか。
(また、この関勝の回りに、生真面目な赫思文、様々な陰を抱えた宣賛といった人物が配置されているのが、関勝のキャラを深めていていいのですね)

 物語的には、実は第八巻で発生した事件の大半が解決しておらず、そういう意味では第八巻同様、ずいぶん混沌とした印象ではありますし、本当にあと一巻で終わるのかしらんと不安になる部分がないでもないのですが、しかしここは素直に物語の巨大なうねりというものを楽しむのが良いでしょう。
 顔見せ組も含めて、百八星全員がこの巻で出揃ったことでもありますし、後はこれまで素晴らしい作品を作り上げてきた、森下先生と正子先生を信じて――最終巻、最終話を今は心から楽しみにしているところです。


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 公式サイト
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