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2007.10.13

「陰陽ふしぎ伝☆妖怪ぞろり」 ヤング道長の冒険

 ここしばらく、児童文学の方では翻訳ファンタジーものが人気ですが、和ものファンタジーも――ブームとかそういったものは関係なしに――頑張っています。今回紹介する「陰陽ふしぎ伝☆妖怪ぞろり」もその一つ。タイトルこそ何ですが、内容の方はなかなかしっかりした平安ファンタジーとなっています。

 康保三年(966)、藤原兼家の元に強運を背負った若君――後の藤原道長――が生まれたことを知った安倍晴明は、同時に黒い影が忍び寄っていることを察知し、襲い来るであろう災いから若君を守るため、これを引き取って育てることとします。藤三郎と名付けられた若君は、京から離れた山里で伸びやかに成長しますが、しかしその行く先々には様々な妖怪の影が――

 というわけで、ヤング道長の冒険といった趣の本作は、タイトル通りに妖怪ぞろぞろ。登場する妖怪は、百鬼夜行に琵琶の怪、妖術使いの鬼女などなど、お馴染みの(?)ものも登場しますが、しかしそのキャラクター造形は一ひねり二ひねり効いていて、なかなか面白く読むことができました。もしかすると元となる逸話・伝承があるのかもしれませんが、例えば物語後半、鷹司の大殿の宴に出現した大首の怪の、その暴れる理由など、実によくできていて感心した次第です。

 そして登場人物では、何と言っても藤三郎のお伴の真白という青年(?)のキャラクターが実に面白い。幼い頃から藤三郎に仕えるこの真白、何をやらせてもうまくできるものがないぶきっちょで、ピンチにはいつも気絶してしまうという人物なのですが、これがまたキャラ立ちの塩梅が実によく、思わぬ拾いもの…といった感じでしょうか。
 一方、主人公の藤三郎は、いかに強運の持ち主で晴明に守られているとはいえ、さすがに十一、二の少年だけあって自分の力だけではどうにもならず、天佑神助(にしか見えないもの)に助けられることもしばしばなのですが、それに甘えることなく、真っ直ぐに怪異に対峙する姿に好感が持てます。また、藤三郎には何故晴明の守りがあるのに、これだけ妖怪に出会うのだろう…と思わないでもなかったのですが(特にある人物の正体を考えれば)、最後まで読んでみると、それにも晴明のある意図が感じられるのがまた面白いと思います。

 調べてみると小学三・四年生が対象の本作、あまり真顔で語るのもさすがに少し気恥ずかしいものがありますが(何を今さら)、しかし、決して子供だましのいい加減な作品ではないことは、私が保証いたします。ファンタジー好き、妖怪好きのお子さんにどうぞ。


「陰陽ふしぎ伝☆妖怪ぞろり」(沢田徳子 旺文社) Amazon

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