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2007.10.06

「柳生非情剣 SAMON」中編 純粋すぎる二人の行方は――

 昨日発売の「コミックバンチ」誌に、隆慶一郎先生の短編「柳枝の剣」の漫画化である「柳生非情剣 SAMON」が掲載されています。
 この「柳生非情剣 SAMON」は、半年以上前に、同誌に掲載されたものの続編。以前の掲載が、原作のほぼ半分程度までの漫画化だったのに対し、今回のはラストまで描ききるようです。

 前回の終わり方は、あれはあれで実に美しく、私はかなり気に入っていたのですが、恋愛というものが綺麗事だけで済ませるわけにもいかないのも確かな話。恋愛――それも徳川将軍と将軍家指南役のそれの始まりと終わりを、如何に描くのか。原作読者としても大いに気になるところですが…

 結論から言えば、田畑&余湖コンビの仕事は今回もお見事、の一言。柳生左門と徳川家光の主従にして師弟が、共に剣を交えるうちに惹かれ合い、戸惑い、そして結ばれる様が、田畑&余湖両氏一流のテンションの高い演出と筆致で描き尽くされています。

 ことに目を引くのは、この二人の純粋さを示す描写。
 父であり大御所である秀忠により、左門への愛に釘を刺された家光が見せる表情には、この愛の成就をもって父を超え、将軍としての己を確立させようという――そしてそれは、以前の柔弱だった己との訣別でもあります――強い意志が感じられます。
 一方、兄・十兵衛に、家光への指南を「剣術ごっこ」と揶揄された時に、彼が見せた強すぎる怒りの表情は、普段が冷徹だっただけに、彼が無意識のうちに抱いていた家光への想い――そう、彼はこの時初めて己の中の想いに気づくのでありました!――の強さを浮かび上がらせて、強く印象に残ります。

 考えてみればこの二人、全く形と質は違えども、共に己の心というものを強く圧した、あるいは律した者同士。そのある意味非常に純粋な者同士の愛情というものは、嗜好的には全くもってノーマルな私にとっても、違和感なく理解することができます。
(ぶっちゃければ、原作よりもだいぶ描写がマイルドになっているのがプラスに働いているのかもしれませんが)

 …もちろん、純粋すぎる者同士が結ばれて、それがうまくいくとは限らない。いや、本人同士は良いとしても、周囲との軋轢がそれを許すとは限らない。
 そんな二人を襲う嵐の行方については次回に続く、ということですが、さてあの結末をどのようにビジュアル化するのか、楽しみです。


 …と、ビジュアルと言えば最後に触れておきたいのが、本作における隆慶キャラ(と敢えて言いましょう)のビジュアル化の見事さ。
 主人公カップルは言うに及ばず、老境に近づいた秀忠のひねっぷりや、獰悪を画に描いたような十兵衛の黒さなど、(漫画的に誇張している部分はもちろんありますが)かなり満足いたしました。
 個人的には、わずか数コマの登場ながら、又十郎の飄々とも気弱ともとれるビジュアルが実にイメージどおりで、ぜひ次には同じ原作短編集に収められた「ぼうふらの剣」を! と感じた次第です(いや、大好きなんですあの作品)。


「柳生非情剣 SAMON」(余湖裕輝&田畑由秋&隆慶一郎 「コミックバンチ」2007年第45号掲載)


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コメント

 某所で「バンチに十兵衛が」とか書いてたので、
何かと思ったらよもやのSAMON続編であり、嬉しい限り。
評価がよかったんでしょうか喃。

 当方としても、
「ぼうふらの剣」もそうですが、
厳勝主役の「跛行の剣」も是非読みたいとこでアリマス。
単行本化の可能性があるなら、希望があるんですが喃。

投稿: 神無月久音 | 2007.10.06 19:47

神無月様:
いやー、直前になって掲載に気付きましたがいい感じの作品でした。後編はちょっと先になるみたいですが…

「柳生非情剣」はどれもいい作品ばかりなので、もう全部漫画化して欲しいくらいですね。

投稿: 三田主水 | 2007.10.07 22:12

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