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2007.11.02

「骨董屋征次郎京暦」 残されものの叫び

 京は夢見坂に骨董屋を営む男・征次郎が出会う様々な事件を描いたシリーズ第二弾が本作「骨董屋征次郎京暦」。
 幕末を舞台とした前作から幾ばくかの時は流れ、舞台は明治。全てが移ろう新しい時代の中で、変わりゆくものと変わらないもの、それぞれの姿が静かな筆致で描かれてゆく連作短編集です。

 政治・社会体制のみならず、価値観までもが一新されてしまったかに見える明治の世。骨董品の持つ美に変わりはないとはいえ、そんな時代においては、古き良きものは顧みられなくなるのが常であり、征次郎たちの稼業も、苦しい状況に置かれることになります。

 そんな征次郎が相対することになる事件は、古き時代と新しい時代の対立・軋轢ともいうべきものばかり。
 明治維新により運命を狂わされた者、維新の傷を引きずった者――言ってみれば維新の「負け組」、時代に取り残されてしまった人々の(さらに言えば古き時代の、決してネガティブではない価値観の)象徴として、本作における骨董は、描かれているやに感じられます。

 そしてその中で、征次郎が共感し、ある時は手を貸し、ある時は見守るのは、やはりその取り残された側。
 変わっていくのは時代の中でも、真に美しきもの、価値あるものは変わらない。そしてそれに対する純粋な崇敬の念だけは変わるべきではない、変わって欲しくないと叫ぶ征次郎の姿は、非常に青臭くはあるのですが、しかし同時に強くこちらの胸を打つものがあります。

 価値観が大きく変動し、勝ち組・負け組などというあまり美しくない言葉が平然と語られる今この時代にこそ、征次郎の叫びは顧みられなければならないと感じる次第です。


「骨董屋征次郎京暦」(火坂雅志 講談社文庫) Amazon

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