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2007.11.05

「神変稲妻車」 超展開の中の愛情

 時は天明三年、若年寄・田沼意知に家宝「みすずの笛」を献上するためその江戸屋敷を訪れた新宮家の使者・白鷺弦之丞は、その笛が何者かにすり替えられていたことから、思わぬところで剣を振るうこととなる。それを皮切りに、次から次へと現れる妖人・怪人たちがめまぐるしく相争いながら繰り広げるのは、三本の笛を巡る争奪戦。果たして三本の笛に隠された秘密とは何か、そして新宮家の、弦之丞の運命や如何?

 横溝正史先生の名作「髑髏検校」については、これまでこのサイト/ブログでも何度か取り上げてきましたが、その相方ともいうべきが、この「神変稲妻車」であります。
 何せ、文庫版で「髑髏検校」が再版されるたびに、なぜか必ず併録されているのが本作。以前も書いたようにまさしく不死身の生命力で「髑髏検校」が甦るたびに、一緒に甦るのですから、随分と恵まれた作品ではあります。

 それはさておき、題名から受ける何やら激しそうな印象そのままに、相当に展開の早い、起伏に富んでいる本作。何せ、二、三ページに一度は新しい登場人物が登場するか、新しい事件が起きるのですから、退屈する間もありません。全編これラストスパートと言わんばかりの書き急ぎっぷりであります。

 しかし、その超展開を除けば、本作は過ぎるほどオーソドックスな伝奇活劇であります。
 秘宝の在処へ導く三本の宝笛を巡る争奪戦を基軸に、陰謀あり、復讐あり、恋の鞘当てありと、時代伝奇小説のエッセンスを取り出して全て放り込んできたようなストーリーにとどまらず、登場人物も、美青年美少女・剣鬼・妖婦・賢人・盗賊・妖術師などなど、オールスターキャストと言いたくなるような盛り込みようです。

 このように良く言えば王道、悪く言えばありがちな作品となっている本作ですが、しかし、これはむしろ作者の狙い通り、作者もわかってやっている一種のパロディといったものではないかと思われます。
 その証拠の一つが登場人物で――美青年剣士の弦之丞、野生児の伊那丸、フリーキーな剣鬼たる丹左など、キャラのネーミング・設定からして、過去の名作を下敷きにしていることが窺われるのです(もっとも伊那丸は元ネタでは野生児の主人筋ですが…)。

 こうして考えてみると本作は作者の時代伝奇小説への愛情、リスペクトの念が籠められた――ある意味暴走した作品ではなかったかな、という印象を受けます。
 決して人死にも少なくない物語でありながら、読後感が悪くない、いやむしろ爽快というかあっけらかんとした味わいがあるのは、この作者のスタンスがあってのことではないか…そんな風に感じられることです。


「神変稲妻車」(横溝正史 徳間文庫「髑髏検校」ほか所収) Amazon

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