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2007.11.19

「血の城」 血の因縁が築く城

 遠州の高天神城に籠もった武田軍と、城を包囲した徳川軍の戦いが続く中、その周囲では二つの事件が起きていた。徳川の部隊を次々と襲い殲滅させる、家康の嫡子・信康に似た頭に率いられた野伏り。周辺の村々で続発する、子供たちの神隠し…城に近い沢木村で、過去を隠して百姓として暮らす瀬兵衛は、二つの事件を通じ、過去からの因縁に直面させられることとなる。

 佐伯・鳥羽に続く文庫書き下ろし時代小説界の俊英として脂の乗り切っている鈴木英治氏のデビュー第二作が本作、長いこと単行本しか刊行されていませんでしたが、大河ドラマ「風林火山」に絡めてか(?)、この度めでたく文庫化されました。

 既に衰退期にあった武田家の没落を決定づけたとも言える高天神城の戦いを背景に描かれた本作は、題材こそ現在の作品とは大きく異なるものの、作風自体は今のそれにも通じる、ミステリ色の濃厚な作品。
 凄絶な籠城戦や、忍び同士の死闘の中で、今なお謎多き(本作の他、たびたび伝奇ものの題材となっている)徳川信康の死の真相と、その信康に似た頭を戴く野伏りたちの謎、さらに遠州一帯を覆う子供を狙った神隠し禍の謎が、緊迫感に満ちた筆致で描かれていきます。

 初期の作品ゆえ(というのは偏見かもしれませんが)、構成等に粗い部分もありますが、錯綜した状況の中、次々と視点を変えつつ、少しずつ謎のベールをはがしながら物語を展開させていく様は、堂に入ったもの。
 ことに、神隠しの悍しい秘密が明かされて以降は、サスペンスフルな展開で、ラストまで一気に引っ張られました。


 しかし本作の面白さは、そうした目の前に示された題材のみならず、物語の遠景となっている戦国大名の血のドラマと、そこに込められた親と子の関係の在り方にもあります。

 高天神城を挟んで対峙する徳川家と武田家は、それぞれに父と子の複雑な――いやむしろ凄惨な、というべき関係を持ちます。
 己の嫡子を、他者の命で切腹させた家康。父が嫡子を切腹させたことにより、家を相続することとなった勝頼。その対照的な帰結が、本作の中で示されるわけですが、しかし共に親が子を殺す、ある意味自然の摂理に反した行為であることでは共通であります。
 その一方で、我が子を救うために己の命を賭ける親――それが本来非情であるべき忍びであるのが面白い――の姿を強烈に対比することで、この親と子の関係というものの複雑さはより一層際だっています。

 本作の題名である「血の城」は、血塗られた激戦が繰り広げられた高天神城を指すのはもちろんのこと、父と子の血縁、まさしく血の因縁によって築かれた二つの家(さらに、登場人物の多くの過去に関わる今川家を加えれば三つの家)の姿――ひいては、戦国大名、いや戦国時代そのものの姿を指すのでしょう。


 ちなみにこれは興味深い偶然ですが、本作の「原典」の一つであろうと思われる国枝史郎の「神州纐纈城」もほぼ同時期に文庫化されています。
 二つの作品で、親と子の関係を、血の因縁をどのように描き出しているのか、読み比べてみるのもまた一興かと思います。


「血の城」(鈴木英治 徳間文庫) Amazon

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