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2007.11.09

「風流冷飯伝」 一筋縄ではいかぬ風流

 四国の小藩を舞台に、ちょっとおかしな「冷飯食い」たちが繰り広げる騒動を描いた、ユーモア時代艶笑将棋小説(?)とでも言うべき快作です。
 讃岐の小藩・風見藩にやって来た江戸の幇間・一八。一見何の変哲もない田舎の藩に見えた風見藩は、しかし、城の周りを歩くときに、男と女で回る方向が異なったりと、変なしきたりだらけなのでした。戸惑う一八にしきたりを教えてくれた冷飯食い(侍の次男坊)・飛旗数馬と行動を共にすることになった一八ですが、数馬の友人の冷飯食いたちも変わり者ばかり…
 この一八、実は御庭番の遠国御用の供なのですが、風見藩で見るもの聞くものは、上に書いたとおり、全てが珍しい――しかし、隠密御用の役には到底立ちそうもないものばかり。おまけに冷飯食いどもは時間だけはたっぷりある連中で、百戦錬磨の江戸の幇間も、さんざん振り回される始末…

 本作の前半は、この一八のカルチャーギャップと奇人変人の生態が描かれ、これだけでも十分に楽しいのですが、後半ではそれらの要素が、将軍家治の御前での将棋勝負を巡る、熱い(?)将棋バトルと陰謀の世界に繋がっていくのには驚かされます。
 将軍の御前での将棋は、もちろんこの上ない名誉。冷や飯食いたちが出場するその代表選手選びも、当然のことながら熱を帯びることとなりますが、しかしその代表選手を待っているのは、文字通り藩の存亡を賭けた大勝負…
 ユーモア時代小説かと思っていれば、実は将棋小説であったか! と気づいたときにはもう遅い。かの田沼意次も絡んできて、勝っても負けても藩を待ち受けるのは窮地のみという大勝負の行方には、すっかり引き込まれてしまいました。
 これはもちろん、勝手にジャンルを決めつけてかかっていたこちらの不覚ですが、いやはやこれは嬉しい不意打ち、という気分であります。
 そしてまた、意外性だけでなく、ユーモア小説としても将棋小説としても、そのどちらとしても実に面白い、完成度が高いというのが、本書の魅力の所以であるのは言うまでもないことですが――

 風流と言えば、一般には凡俗を離れた美しさや雅やかさを指しますが、しかしまたそれから転じて、華麗できらびやかなもの、あるいは意表をついたものという意味も持っています。更に言えば、歌ったり踊ったり、賑やかに囃したてることもまた風流(「銭まくさかい風流せえ」の風流ですな)と呼ばれます。
 本作の風流がそのどの意味であるか――と考えること自体、風流ではないのかもしれませんが、なかなか冷や飯連中や風見藩そのもの同様、なかなかどうして一筋縄ではいかない本書を飾るのに、風流というのは実に良い言葉であるな、と感心した次第です。


「風流冷飯伝」(米村圭伍 新潮文庫) Amazon

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