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2007.11.15

「スプリンガルド異聞 マザア・グウス」 天使に変わったバネ足男

 弁護士の息子アーサーの前に突然現れた少女ジュリエット。ジュリエットの目的は、アーサーの屋敷に眠るという彼女の叔父のカバンだった。その叔父の名はウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド。そしてそのカバンの中身こそは、あのバネ足ジャックのコスチュームだった。その力で、自分をモデルに怪しからぬ写真を撮ったホルム教授を懲らしめようとするジュリエットだが…

 さて以前紹介いたしました「黒博物館 スプリンガルド」の、番外編と申しますか後日譚と申しますかがこちら「スプリンガルド異聞 マザア・グウス」。「スプリンガルド」本編の次の世代の物語と言うべきか、奇しき因縁で出会った少年少女の繰り広げる、ちょっぴりダークな冒険活劇であります。

 お話的にも人物配置的にも色々と入り組んだ本編に対し、こちらはかなりストレートに「悪いやつをやっつける」冒険活劇。
 もっとも、その悪いやつが、メスメリズムを悪用して少女の破廉恥な写真を撮る変質者という、本編とは全く別のベクトルで、少年誌ではできない設定ではあるのですが――
 しかし、そんな弱き者の尊厳を踏みにじるような輩に対し、少年少女の刃として登場するのが、あのバネ足ジャック(のコスチューム)というのが実にユニークなところです。
 元々が悪趣味な悪ふざけの道具として生まれたものが、時に狂気を具現化する牙として、あるいは愛する者を護る楯として使われ、そしてそれが今度は…というのは、何とも見事なトリックスターぶりではあります。

 そして、そんな少年少女たちが、奮闘――特にひ弱な少年の見せる骨っぽさは、お約束とはいえ、やはりグッとくるものがあります。立派すぎてどこぞのスーパー小学生を思い出しましたが――虚しく倒れかかったときに、颯爽と救いに現れるのが、真のバネ足ジャックというのも、これまたお約束ではありますが、実によろしい。
 しかしまあ、個人的には一番喜んだのは、ウォルターがポロッと口にした「警視庁の友人」という言葉ではありますが…いや何でしょう、この我がことのように嬉しい気持ち。

 と、勝手な思い入れはさておき、男として最高に格好良くも切ない姿で(一旦)退場した人物が、また別の形で最高に格好良く帰ってくるのは、なかなか感慨深いものがあります。
 彼が見つけた「次の悪戯」がこれ、と思いこむは些か短絡的に過ぎるかもしれませんが、しかし人間は「変わっていく」もの。バネ足男が少年少女の守護天使に――いや愛の天使に変わるというのは、いかにも人を食った話で、ひねくれ者の彼が大いに喜びそうではありませんか。

 何はともあれ、ある意味二世代かかって愛を成就させたとも言えるバネ足ジャック。本編の切ない幕切れももちろん良いのですが、こちらの微笑ましい結末には、ホッとさせられます。


 さて、そのおどろおどろしい標題とは裏腹に、まずは気持ちよく完結した黒博物館シリーズの第一弾。
 第二弾はまだ少し先のようですが、不思議な遺物が紡ぐ熱く切ないドラマに――そしてあのミステリアスなくせに可愛らしいキュレーターさんにも――早く逢いたいものです。


「スプリンガルド異聞 マザア・グウス」(藤田和日郎 講談社モーニングKC「黒博物館 スプリンガルド」所収) Amazon

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