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2007.12.21

「七人の十兵衛」(その三) 十兵衛の様々な貌

 長くなって相済みません。今日で「七人の十兵衛」紹介もラストです。
「百万両呪縛」(高木彬光)
 もう一つ、ミステリ作家の描く十兵衛が登場します。戦後ミステリ界の代表選手の一人である高木先生が、しかし、実は少なからざる数の時代小説を残しているのはファンならば周知の事実。
 その作品は――真面目なファンの方には怒られそうですが――角田喜久雄先生の作品にジャンクな味付けをほどこしたようなもので、ある意味実に大衆小説的な味わいなのですが、本作にもその味わいが濃厚に感じられます。

 京を騒がす大盗を退治ることとなった十兵衛。かの関白秀次が遺したという百万両の財宝を巡り暗躍を始める大盗ですが、その財宝探しのライバルとして現れるのが何と風魔小太郎という豪華キャストであります。
 しかしこれでは十兵衛の影が薄くなるばかりでは…と思ったところで飛び出してくるどんでん返しがなんともユニークで、格調やテーマ性という点では一歩譲るものの、エンターテイメント性という点では、他の作品に全く劣るものではありません。

 ちなみに――もし高木先生が時代小説に専念していたら、角田喜久雄の正統後継者足り得たのではないか…という思いを私は昔から抱いているのですが、これは余談。


「十兵衛の最期」(大隈敏)
 さて、最後に用意されているのは、十兵衛の死を描いた作品。十兵衛の死は、その状況に些か不明瞭な点があることから、しばしば時代小説の題材とされていますが、十兵衛を主人公に据えた短編集に収録されていた本作では、また独自の解釈がなされています。

 何よりも、本作に登場する十兵衛自体が非常にユニークです。一部ネタバレになってしまいますが、ここで登場する十兵衛は、なんと女とも見まごう美形。
 十兵衛というとほとんどの作品で、性格はともかく、外見は共通して男臭い風貌として描かれており、弟の友矩さんと役割分担しているようにすら思えます(美形十兵衛って、ざっと思い出せる中でも、コミック「THE無頼」の十兵衛くらいではないかしらん)。

 しかるに本作で描かれるのは、そのイメージを覆すような十兵衛像。まさにそのイメージのギャップを利用して十兵衛が隠密活動を続けてきたという設定がまたユニークですが、その果てに十兵衛が迎えた死の一因に、そんな中で十兵衛が抱いてきた鬱屈があったというのがまた巧みな構成だと思います。
 ある意味、十兵衛というキャラクターにふさわしい最期と言えるかもしれません。


 さて――ここまで長々と全七作品を紹介してきましたが、あらためて感心させられるのは、十兵衛像というものの多様性です。

 たとえば同じ大剣豪たる宮本武蔵については、吉川英治の「宮本武蔵」という巨大すぎる山脈が存在しているため、様々な作家が武蔵を描いたとしても、その人物像は、ここでのイメージを踏襲するか、はたまた正反対とするかに大体収斂していきます。
 その一方で十兵衛は、幾つもの強烈なキャラクター性を持ちつつも、本書に見られるようにその人物像は実に様々であり、武蔵よりも遙かに折り目正しく公的な記録にも登場する人物でありながらこの現状は、吉川武蔵のような決定版が存在しないというのを抜きにしても、なかなかに興味深い現象であります。

 剣豪か隠密か。快男児か梟雄か。隻眼か双眼か…柳生十兵衛という剣豪が、実は様々な貌を持つ不思議な存在であることを――ちなみに私はその一因に、「剣」と「権」の両道を往った柳生家の特異性があると考えていますが――本書は教えてくれます。


「七人の十兵衛」(縄田一男編 PHP文庫) Amazon

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