« 「砂絵呪縛」 というよりも森尾重四郎という男について | トップページ | 「おんみつ蜜姫」 親子の絆と自己の確立と »

2007.12.14

「討たせ屋喜兵衛 浪士討ち入り」 伝奇度MAXの裏忠臣蔵

 仇討ちの理非を調べ、時にその手助けをし、時にそれを防ぐ討たせ屋を吉原で営む喜兵衛と千歳のもとに、吉良方と浪士方、双方から依頼が持ち込まれた。そもそもの刃傷事件の陰に不審なものを感じ取った喜兵衛は、上野介の近くに入り込むが、そこで彼が知ったのは、上野介の意外な素顔と、想像を絶する事件の裏側だった。

 中里融司先生の代表作の一つ「討たせ屋喜兵衛」シリーズ全五巻の第四巻目は、いよいよ赤穂浪士の討ち入りに喜兵衛が挑むことになります。
 これまでも清水一学や高田郡兵衛等、「忠臣蔵」の登場人物が登場し、浪士方と吉良方の争いが物語の遠景として描かれていましたが、ここで一気にそれが前面に出ることとなっています。

 このシリーズ、これまでは史実に絡むことがほとんどなく、必然的に(?)伝奇度は低かったのですが、今回はいきなり伝奇度MAX。諸説ある松の廊下での刃傷沙汰について、非常にユニークな――それでいて、吉良上野介の立場・職責というものを考えればなかなかに説得力のある原因を設定しており、さらにそれが喜兵衛たち自身の戦いに直結していく辺り、うまいものだと感心します。

 と、吉良方を悪役にしない場合、必然的にその敵役として赤穂浪士たちの立場が悪くなってしまうのですが、本作においてはそこにも目配りがされており、特に大石内蔵助が討ち入りを行う理由は――それ自体は先行の忠臣蔵ものでも幾つか見られるものではあるのですが――本作のテーマの一つである、武士としての生き様、武士としての道に結びついているのが、またドラマを盛り上げる工夫として見事です。

 しかし、吉良方も浪士方も、どちらも非がないとすれば、喜兵衛が直面するのは、討たせ屋としてどのような決断を下すべきか、という非常に難しい問題。理に叶わぬ仇討ちであれば、実力を行使してでも止める討たせ屋にとって、最大の難題でありますが、ここで喜兵衛が、そして上野介が取った解決策というのが、また実に人を食ったものであって、伝奇者としては大喜び。いや、さすがにこの展開は予想できなかった! と小躍りした後で、武士としての生き様を貫こうとする登場人物たちの心構えに、粛然とした気持ちにさせられました。

 さて、討ち入りと並行して展開するのは、喜兵衛たちの物語。前の巻で、喜兵衛を親の仇と狙う伊織・彦一郎姉弟の弟の方に、討たせ屋としての喜兵衛の存在がバレてしまいましたが、この巻ではいよいよ最強最悪の暴力女武芸者・伊織にまで討たせ屋喜兵衛の存在を知られてしまって大騒動。その騒動を如何に解決させるか、シリーズものとしても一つのクライマックスで、こちらも十分に楽しませていただきました。

 そして遂に次の巻が最終巻。あまりにスケールアップした敵の所業に、如何に討たせ屋チームが立ち向かうか、大団円を期待したいと思います。


 ちなみに…このシリーズでは毎回、喜兵衛が仇討ちに巻き込まれて無念の涙を呑んだ人物から剣技を受け継ぎ、その技で悪を斬るという趣向があるのですが、今回喜兵衛にその技を伝授するのはなんと――いや、このアイディアを考えついた中里先生には、本当に感心いたします。いやはや、こんな○○○見たことありません。


「討たせ屋喜兵衛 浪士討ち入り」(中里融司 ハルキ文庫) Amazon

関連記事
 「討たせ屋喜兵衛 斬奸剣」 パターン破りのヒーロー誕生
 「討たせ屋喜兵衛 秘剣稲妻」 討たせ屋稼業始まる
 「討たせ屋喜兵衛 秘剣陽炎」 流れる時の重みの前に

|

« 「砂絵呪縛」 というよりも森尾重四郎という男について | トップページ | 「おんみつ蜜姫」 親子の絆と自己の確立と »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/17361884

この記事へのトラックバック一覧です: 「討たせ屋喜兵衛 浪士討ち入り」 伝奇度MAXの裏忠臣蔵:

« 「砂絵呪縛」 というよりも森尾重四郎という男について | トップページ | 「おんみつ蜜姫」 親子の絆と自己の確立と »