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2007.12.01

「野獣郎見参」 晴明と室町と石川賢と

 応仁の乱で焼け野原と化し、晴明塚の封印を解かれた魔物が跳梁する京に現れた不死身の男・物怪野獣郎。安倍晴明が残した秘法「晴明蟲」の謎を追う魔事師・芥蛮獄と出会った野獣郎は、己の最愛の女・美泥を妻とした蛮獄に激しい敵愾心を燃やすが、その二人に、陰陽頭・安倍西門は、魔物たちの首領・道満王退治を持ちかける。反目しながらも道満王と対峙した二人だが、彼らが道満王と、そして晴明蟲の正体と知った時、新たな悲劇が幕を開けるのだった。

 劇団☆新感線のいわゆるいのうえ歌舞伎で最も伝奇色が濃厚な作品は? と問われたら、おそらくこの作品の名が挙がるのではないでしょうか。室町の世を舞台に、「男は殺す、女は犯す。金に汚く己に甘い、傍若無人の」不死身の男が、安倍晴明の封印から解かれた妖怪たちと死闘を繰り広げ、永遠の生を得るという秘法「晴明蟲」の謎を追う大活劇であります。

 安倍晴明と言えば、今ではすっかりメジャーな存在となってはいますが、私が今回観た2001年版が上演された時点はともかく、初演の1996年の時点では――既に夢枕獏の「陰陽師」シリーズが80年代後半に、岩崎陽子の「王都妖奇譚」が90年に開始されていたものの――まだまだ一般に知られたとは言い難い存在。
 そのような時期に安倍晴明を物語の中心に据えた物語を、しかも室町時代を舞台に展開してみせるというのは、これはもう演劇界、いやエンターテイメント界指折りの伝奇者(という呼び方は失礼かしらん)の中島かずき氏ならではの趣向だわいと、つくづく感心いたします。
 しかも、現在に至るまでヒーロー役としての登場がほとんどである晴明を、××にしてしまうというのだから凄まじい。晴明蟲のアイディアなど、実に斬新で、よくもまあ考えついたものだと唸らされました。

 と、いきなり物語の方に触れてしまいましたが、その物語の中で縦横無尽に暴れ回る登場人物と、それを演じる役者もまた見事です。
 特に、芥蛮獄を演じた古田新太は、毎度のことではありますが見事な存在感。ちょっと軽めな飄々としたキャラクターで、しかし人間と妖怪の共存を夢見る理想家肌の男という前半から、一転、破壊欲の権化と化したようなドスの利いた魔人と化した後半、そしてラストで明かされるその胸中に至るまで、古田新太の引き出しの多さと役作りの巧みさを堪能させていただきました。メインキャラがほとんど客演陣という中で、一人新感線生え抜きで頑張っていただけはあります。

 一方、ヒロイン・美泥を演じた高橋由美子は、さすがに演技派だけあって、蛮獄と野獣郎の間に、そして人間と妖怪の間に立つ存在という難しい役柄を好演。小柄で可愛らしいルックスながら、いやそれだからこそ、己の宿命に必死に抗おうとする一人の女性としての存在感が際だっていたかと思います。
 そして主人公・野獣郎を演じたのは堤真一。いのうえ歌舞伎の中でも屈指の傍若無人キャラを演じるには、ちょっと人が良さそうかな…と思いましたが(後に同じ新感線の舞台で「吉原御免状」の松永誠一郎を演じるんだから役者って凄いなあ)、単なるバイオレンスな俺様主人公ではなく陽性の部分の強いキャラクターとなっているのは、冷静に考えると相当陰惨なストーリーの中にあってはむしろ正解であったかと思いました。

 このように、いつものことながら満足度の高い作品に、失礼を承知であえて難点を見つけるとすれば、物語の重要なファクターとなっている人間と妖怪――その中でも「鬼」と呼ぶべき存在――の対比が、今ひとつ際だって見えてこなかったことでしょうか。
 単に姿が似ているだけの全く別種の生命体なのか、あるいはたまさかに道を違えただけの隣人なのか。なまじ鬼側のキャラクターが実に「人間的」なだけに、美泥が乗り越えようとし、蛮獄が共存しようとした二つの種の境目が曖昧なのは――それは意図的なものなのかもしれませんが――少々勿体なく感じた次第です(この辺りのテーマは、「阿修羅城の瞳」でより掘り下げられていますが…)
 もっとも、野獣郎に言わせれば、そんなものに大した違いはねえ! と一笑に付されて終わるかもしれませんが。


 ちなみに――初演のポスターを描いたから、ということではないでしょうが、野獣郎のキャラクターから漂うのは何ともいえぬケン・イシカワ臭。言動自体もそうですが、二幕中盤の、捕らえられて五体バラバラにされた姿などもう…あ、よく考えてみればラストも既視感が。
 …と、思ったら、パンフレットでも古田新太が石川賢に言及しているらしく(未確認ですが)、まあ中島かずきと石川賢の結びつきから考えればそれも不思議ではない…のかな?


「野獣郎見参 BEAST IS RED」(イーオシバイ DVDソフト)


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