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2007.12.08

「妖棋伝」 王道の先頭往く名作

 上州の郷士の次男坊にして縄術の達人・武尊守人は、仕官の道を求めて上ってきた江戸で、瀕死の男から将棋の銀将の駒一枚を託される。それこそは徳川家秘蔵の「山彦」の銀将というという曰くつきのもの。その銀将を巡って暗躍する自分と同じ縄術使いの怪人・縄いたち、妖女・仙珠院らを向こうに回し、守人は、南町奉行所与力・赤地源太郎と共に山彦争奪戦に巻き込まれるのだった。

 冷静に考えてみたら、未だこのブログで紹介していなかったこの「妖棋伝」。これこそは角田喜久雄先生の時代小説処女作にして、今なお時代伝奇小説界に冠たるマスターピースであります。

 仮に時代伝奇小説というものに王道があるとすれば、本作こそはその先頭を往く作品と言うべきもの。
 山出しの主人公が偶然謎を秘めたアイテムを託され、秘宝の争奪戦に巻き込まれるというプロットといい、快男児にお侠な美女、奇怪な怪人に毒婦、奸商に隠密といったキャラクター配置といい、全て時代伝奇小説の一つの典型――というより、本作こそが典型になったと評すべきでしょうか。
 はっきり言ってしまえば今では珍しくもない、物語を構成する要素が、しかし本作においては極めて有機的に結びつき、そして今なお色褪せない、まさに一読巻を置くあたわざる作品としているのには、感心を通り越して畏怖の念すら感じさせられます。

 そして、その奇跡的な物語の面白さの隠し味――いや淵源となっているのは、当時既に探偵小説作家としての地歩を占めていた角田先生ならではの、ミステリの要素であることは疑いありません。
 四枚の銀将に隠された謎の行方を求め、幾多のキャラクターが絡み合い物語が進むうちに、巨大な秘密が浮かび上がるという展開の中に見られる、論理性を重んじる端正な物語構成は、まさしくミステリの骨法を会得した作者ならではのもの。

 そしてまた…本作におけるミステリ要素の最たるものは、それは作中のある人物の正体にまつわる一種のトリックであります。その驚きと魅力については、私なぞよりも、あの時代小説、そして推理小説の大家たるあの人物の言葉を引いた方が適切でしょう。

「このときの驚きがあまりに大きくて、後年世界の推理小説でベストテンなどを読んで、さまざまの"意外な犯人"を知っても、それほど驚かなかったくらいである。推理小説の最大の醍醐味、犯人の意外性という面白さは、僕は推理小説よりもこの『妖棋伝』によって満喫させられたといっていい」――山田風太郎

 奇才をして手放しで絶賛させしめた本作とその作者。残念ながら、現在では人口に膾炙しているとはとても言い難い状態ですが、このブログをご覧になった方だけでも手にしてくれたら、これに勝る喜びはありません。

 …というか荒山先生、入口のことももっと宣伝して下さい。


「妖棋伝」(角田喜久雄 春陽文庫) Amazon

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コメント

この作品も最近読みました。・・・絶句です。傑作です。角田作品ってけっこう「謎は解くけど宝は探さない」というパターンがあると思うのですが、この作品はしっかり謎を解き、宝も探して、しかもあのオチがついているという凄さ。

僕が角田作品をつくづく凄いと思うのは、色と欲にまみれた悪役達の圧倒的な存在感。あのギラギラ感は昨今の時代小説からは味わえません。そして悪役による徹底したヒロイン苛め。主人公とのハッピーエンドこそ約束されているものの、脱がすわ縛るわ拷問するわ、ほとんどSMで、昔の読者は絶対アレを読んで興奮したはず。しかもヒロインの恋のライバルは情容赦なく手篭めにされる、自殺するなど悲惨な末路を辿るケースが多いのもすさまじい。
あれは時代劇というものが今よりずっと日常に密着していた時代の大衆の欲望をそのまま反映しているように思いました。

投稿: 鱧 | 2009.05.10 20:37

私も初読の時はあまりに面白くて本当に驚きました。
それにしても言われてみればそうですね>パターン

悪役については全く同感です。主人公たちは意外と時代ものの定番なキャラクターが多い印象ですが、悪役の妙な躍動感というかリアリティというかは…
時々、読んでいて「これいいの?」という気分にもなる外道ぶりで、驚かされます。

実は角田先生、結構人が悪いのではないかと思っていたりもします(笑)

投稿: 三田主水 | 2009.05.11 00:35

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